恋はどうしようもない
口付けしてよという僕のお願いに応えてくれた風間が、頼んでもいないのに腕を背中に回してくれたのが嬉しくて、少し泣きそうになってしまった。けれど風間の舌に絡めようと伸ばした僕の舌が勢い良く風間に食まれ、その痛みで実際に涙が出てしまう羽目に陥る。こんな泣き方望んでないのに。
抗議をしようにも口内は風間で埋め尽くされていて、言葉なんて全く出せなかった。どんどんと腕を叩き、離れてと暗に訴えてやっと僕は解放された。
「何で噛んだの? 痛いんだけど」
僕の言葉に、風間が不適な笑みを浮かべる。
「貴様が、俺以外と口付け出来ぬようにしておこうと思っただけだ」
「どういう事?」
「こんな接吻を貴様にしてやれるのは俺だけだからな、もう俺以外とは出来なくなるであろう?」
そう言って顔を近付けてきた風間にまた舌を噛まれた。痛い痛いと僕が嫌がって逃げると風間は笑う。「その内、癖になる」と言って、それはそれは楽しそうに。
忘れてた、風間ってこういう奴だった。
「止めてよ、次やったらもう会わないからね」
本気で拒絶する僕の頭を撫でながら、分かった分かったとか余裕をかましてるのが本当に腹立たしい。何なの。
「それでは、仕切り直しだ」
なのにそう言った風間の声が低くて格好良くて、何でこんなに心が震えるよう声してるんだろうと思ったらまた腹が立った。
「……ん、」
どちらともなく短い言葉が出て、合わされた唇が温かくて、たったそれだけで融けそうになるのは一体どんな理由なんだろう。
今度は本当に優しい口付けをされて抱き締められて、幸せな筈なのに・・・
「やっぱり……痛くして」
何故だか物足りなくなってそう言うと、風間がまた笑った。けれどその顔が凄く優しくて愛情に満ちていたから、僕はこの次も痛い口付けを強請ってしまうに違いない。
こうやって結局風間の思い通りになっていく自分が、悔しくて堪らないのにまた直ぐに会いたくなってしまうのだから、恋というのはどうしようもない。
2016.05.27
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