嘘ですよ

「僕、左之さんのことが好きになっちゃったみたい」
「………………え?」

突然の総司の言葉に、新八の動きが止まる。
何を言われたのか分からなかった。
冗談か?
いや、笑えねぇだろ。
じゃあ何だ?本気ってことか?

何時も就寝前に口付けを求める総司に、今日こそは自分からしてやろうと思って伸ばしていた新八の手が、行き場を失い空で彷徨う。
その手を横目で見ながら、

「そういうことだから、もう新八さんとは付き合えないです」

淡々と総司が告げる。
ふい、と逸らされた視線も顔も、嘘を言っているようには見えなくて新八は惑った。
何故惑うかと言えば、それは勿論総司を好きだから。簡単に納得など出来ない。

「……いつからだ」
「何がです?」
「いつから、左之のこと……」

好きになったんだ、という言葉は出せなかった。
その事実を認めたくなくて、どうしても言いたくない。

「さぁ?いつからって言われても……新八さんのこと見てれば、嫌でも目に入りますからね」

確かにいつでも新八は左之と居た。
総司と付き合うようになってからも、総司と居るより左之と共に過ごす時間の方が余程長かったと思う。

左之のことは大事だし、総司に対してとは違うがとても好きだ。
だけどその所為で、自分達が一緒に居た所為で総司の気持ちが移ってしまっただなんて、何という残酷さだろう。

どうすれば良かったのか、反省すべき箇所も分からない。
いや、単純に自分より左之の方が魅力があるというだけなのかもしれない。

「……めだ」
「え? 何ですか?」
「駄目だ、認めねぇ! 俺は例え左之にだって総司を渡したくなんかねぇ!」

普段よりも大きな声で宣言し、目の前の人物が驚く顔を向けるのと同時に、腕を引いて押し倒した。
無理矢理前を開いて、中に手を差し入れる。
今迄何度か触れてきた、滑らかな感触。

そこまでしてから相手を見ると、見上げてくる総司の顔に嫌悪の色は見当たらない。
ただ驚いた表情を見せるばかりで、逃げようとする素振りすら見せない。

「……っくそ、何で逃げねぇんだよ」

全く抵抗をしない総司に、新八は悔しそうに唸り、入れていた手を引き抜いた。
自分が今しようとしてしまったことに罪悪感が湧いて、総司に背を向け座り直すと

「あれ? 終わりですか?」

と軽い調子の声が掛けられた。
振り返れば畳に倒された状態のままの総司が、笑みを浮かべて新八を見詰めている。

「もう、新八さんてば真面目なんだもん。そのまま無理矢理抱いてくれると思ったのになぁ。あ〜ぁ、がっかり」
「何言ってんだ、お前……」
「やだな、嘘ですよ? 左之さんを好きになったなんて」
「……は?」
「だって新八さんてば、僕が頼まないとなぁ〜んにもしてくれないんだもん。僕ってあんまり好かれてないのかなぁってね、悩んでたんです」
「……え?」
「もう、鈍いなぁ。だから新八さんが僕を好きかどうか試したんです」

今何を言われているのか、ここまで何が起きていたのか。
新八は直ぐには理解が出来なくて、悩むことも出来ず思考が停止した。

呆けた新八に呆れた総司が起き上がり、「だから、」と言って説明を始めた。
左之を好きだと言ったら、それを聞いた新八がどういう行動に出るのか見たかった。
分かったと引き下がるのか、それとも怒るのか。

「結果は上々でしたね。新八さん、僕のこと誰にも渡したくないんだ?」
「……あぁ」
「ふぅん、じゃあ続きしてよ」
「続き? 何の?」
「さっきの続き。僕のこと、襲うつもりだったんじゃないんですか?」

言われて、つい今しがたの自分の行動を思い出す。

「悪かったよ」
「悪いのはあそこで止めたことですよ? ちゃんと最後までして下さい」
「そうじゃなくて……それじゃ駄目だろ? 俺はお前に酷いこと、したくねぇし……」

新八の言葉に総司はむっとした顔をする。

「酷いことって、いつも僕より左之さんと一緒に居ることは酷くないとでも思ってるんですか?」
「え?」
「僕より左之さんの方が大事?」
「そんな訳ねぇだろ!」
「じゃあ、僕ともっと一緒に居てよ。そうじゃなきゃ、本当に左之さんの方が好きになっちゃうかも」

あぁ何だ、こいつは左之に嫉妬してたのか。
新八はやっと総司の真意に気付く。
最初からそう言えば良いのに、全く……可愛いな、と思う。

「お前と居るとよ、理性がもちそうにないんだよ」
「別に構いませんよ。それよりもっと手を出して欲しいです。僕ってそんなに魅力無い?」
「そんな訳ねぇだろ」

言いながら、改めて押し倒した。
口付ける為に近付けた唇が触れ合う前に、総司が小さく呟いた。

「今夜は激しくして欲しいな」

分かったよ、と答える代わりに、新八は濃厚な口付けを総司に贈った。

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