今更言えなくて

新八さんの手の動きが速くなった。比例して自分の声が高くなっていくものだから、僕は情けない声でやだ、いやですと呟きながら首をゆるゆると振っていた。
もしも本当に手を止められてしまったらきっと嫌なのに、制御出来ない快感がせり上がるのも、その快感に支配されるのもこの時の僕は怖くて堪らなかったんだ。

目の端から涙が零れた。普段は鈍感なくせにこんな時だけ目敏い新八さんが、「総司、もう出そうか?」と訊ねてくる。その声に僕を気遣う優しさが含まれていて、嬉しいのに何故か胸が締め付けられる。
綯い交ぜになった感情に思考が乱される。どうしたら良いのか分からなくなって、もうやめて下さいと僕は答えていた。
新八さんは困ったように笑って、僕を高める手に力を籠めた。僕の望みは叶えたいけど、いざ望み通りにここで止めたら辛いのは僕の方だって分かってるからだろう。

程無くして我慢出来ずに吐き出してしまった僕の熱が、新八さんの手を汚す様を見ていられなくて目を逸らした。息が苦しい。ぎゅっと目を瞑るとまた一つ、涙が零れた。

総司、気持ち良かったか?訊ねる声はやっぱり優しくて、酷く苛々してしまう。
良く無いです、全然気持ち良く無いです。目を逸らしたまま怒ったように言えば、じゃあどうすればよくなるんだなんて馬鹿みたいな質問をされた。みたいっていうか、馬鹿なんじゃないのこの人。言わないと分かんないとか有り得ない。



先にこんなことされたら今更口づけして欲しいなんて、言える訳が無いじゃないか。

2016.04.08


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