本当は、ずっと

※現パロ


「会いたい」と、

言葉にしてしまったら我慢が出来なくなりそうで、新八さんとの電話は取り留めの無い話に終始して切るのが常だった。
最近は互いの仕事の都合で全く会えず、プライベートでも予定が合わなくて唯一の繋がりは電話のみ。

会いたいと言うのを避けているくせに、言えないからこそ会いたい気持ちが募ってまるで悪循環だ。
切った後の携帯はなかなか置けず、何かを言い忘れたと言って新八さんからの着信が無いかと暫らく画面を見詰め続けるのが当たり前になっているけど、毎回期待は裏切られて一定時間の後に画面は呆気無く闇色へと変わる。

そうなってから、今度は今聞いたばかりの新八さんの声を反芻する。
頭の悪そうな声で呼ばれる「総司」という自分の名前を、今日は何回言われたかとか、電話口でされる馬鹿笑いなんかを思い出したらまた声が聞きたくなって、もう自分は重症なんだと思った。

いっそ僕から掛けてしまおうか。
言い忘れたことがあったと言って、また取り留めも無くて実も無い無駄な会話を続けていれば、きっと新八さんは「言い忘れたことって何だ?」と訊いてくるだろうからそこで言おう、「会いたい」と。

――不意に鳴ったチャイムに驚いた。
慌ててインターホンに出ると、あぁまるでドラマか漫画みたいだ。新八さんの声が「よぉ、総司」と僕を呼ぶなんて。

ドアを開けて迎え入れた新八さんは、何か電話でお前が元気無さそうだったからさと言って、明るく笑った。

「……馬鹿じゃないの?」
「え、馬鹿? ひでぇ、心配して来たんだぞ?」
「頼んでないんだけど」
「まぁそうだけどよぉ、でも総司は一人にしとくと心配っていうか……」

新八さんの言葉尻は、僕が唐突に抱きついた所為で消えてしまった。
何だ、どうした? と慌てる新八さんは、それでも僕から離れずに居てくれる。

「新八さん、ほんと馬鹿じゃないの?」
「えっ、まだ言うか?」
「だって……だって、僕が、どんな気持ちで……」
「うん、会いたかったんだよな。会いたいって思ってくれてたんだよな、総司は」

何だよその言い方、それじゃ僕だけが会いたいと思ってたみたいじゃないか。反論したかったのに、今声を出したら涙まで出てしまいそうで、癪だけど否定することが出来なかった。

うんうんと、僕が何も言ってないのに何でも分かってるように頷く新八さんにむかついて、でも背中に回された新八さんの腕の温度に安心して、漸く僕は会いたかったと小さく呟くことが出来た。

2016.04.28


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