嘘吐きな温度

止めて下さいよと言って押し返す手に力が入らないのは、飲み過ぎた所為だと思う。
つまりは自分の所為という事になるのだけれど、もう部屋に戻ったらどうですかと言っているのに聞く耳も持たず、僕の部屋の隅で口付けを続ける新八さんは更に酔っているに違いない。

「ねぇ、もういいでしょ?」
「あぁ」

従順な返事とは裏腹に、再び唇を落とされる。
どの口付けも軽いものばかりだったけれど、こうも繰り返されるとその気になってしまうのだから、取り返しの付く内に戻ってもらいたい。
だって僕、明日早いし。
なのに新八さんときたら、きっと朝まで僕を離さないつもりなんだ。
そんなの……困るじゃない?

「止めてって言ってるじゃないですか」
「聞こえてるよ」
「ならもう止めて下さいよ」
「あぁ、分かってるって」

そう言って口付けを止めないこの人を、いっそ殴れれば良いのに。
今夜の僕は、酔って力が入らないからそんな事出来ないんだ。

なんて。
酔ってるなんてただの詭弁なんだ。本当は押し返す力も殴る力も、僕には残っているんだから。
だけどそうしないのは総司総司と呼んで来るこの人が、いつにも増して可愛いからだ。

「……戻らないんですか?」
「戻るさ」

って、戻るつもりなの?
僕にだけ熱を灯らせておいてどういうこと? 新八さんのくせに、生意気なんじゃないかな。
まぁ僕の方が年下なんだけど。

あぁでも、僕を抱き締める新八さんの温度が、今の言葉は嘘だって言ってる。
早く戻って下さいよと言いながら、新八さんの背中に回した腕の温度で、まだ居て欲しいって思ってるのが伝わっちゃったかな。

言いたくなんか無いんだけど、まだ貴方と一緒に居たいって思う程度には僕、新八さんのことが好きみたいです。

2016.05.09


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