可愛いひと

あの日の僕は、土方さんにかなり苛々していた。
だから土方さんに何か隠し事を作ってやろうと思って、そんな時に現れたのが薫だったから、それだけの理由で「こっそり僕と会おうよ」と誘ってみた。
意外にもあっさりと了承した薫は、それからなるべく僕と会うようにしてくれている。

今日は町外れの木陰で会った。
人通りも少ないし、例え誰かが通ったとしても、木々が多くて隠れてしまえば見付からない。
これは密会なんだ、そう思うとわくわくしてくる。

けれど今日の薫はいつもと違っていた。
太めの木の幹に僕を追いやって、お前、俺の事どう思ってるんだ? と問い掛けてきた。いつも通りの、あの女性の格好のままで。

「可愛いと思ってるよ」

そう答えると、どこがだよ? とまた問われた。

「その格好も似合ってて可愛いし、でも男の子の格好をしてても可愛いよ、それに顔も可愛いし、あと僕の腕にすっぽり収まりそうな所とかかな」

薫は華奢だから直ぐに抱き締められそうだし、と笑ったら突然胸倉を掴まれて、僕の目線を薫と同じ場所まで引き下げられた。
何が起きたのかと思っていると、目の前に迫る薫の顔。

「え、どうしたの?」
「こうすれば、そこまで身長差は感じないだろ?」

確かに目線がほぼ同じになっている今なら、身長がどうとか思わないかもしれない。
だから「そうだね」と軽く頷こうとした時、手首をぎゅっと掴まれた。

「沖田も可愛いからな?」

掴んでくる薫の手に意識が向いた隙に、唐突に口付けられた。
離れていく唇を見ながら、今起きた事を反芻する。でも、意味が分からない。

「嫌だったのか?」
「えっ、嫌じゃないよ?」

反射的に答えた後に、あれ? ここは嫌がるべきだったのかなと思う。

「なら、もう一回するからな」

そう言って笑う薫は、女装しているのに何故だかもう「可愛い」なんて形容詞が似合わない程男らしく見えて、近付く匂いは欲を湛えていた。

もしかして薫は僕を好きなのかな、なんて暢気に考えていると、唇が強く押し付けられる。
驚いた拍子に開いた場所からは、迷う事無く舌が潜り込んできた。

息が上がる程の口付けを繰り返されて、漸く離れた薫がまた僕に問う。

「嫌だったのか?」
「え、嫌じゃないよ?」

そうしてまた反射的に答えてしまって、薄く笑う薫の顔を見てから、ここは嫌がるべきだったのかと再び考える事となる。

「なら今夜、この続きをしても良いよな?」
「続きって、何?」
「すれば分かるさ」

そう言って口端を上げた薫は酷く大人びて見えて、思わず「うん、いいよ」と答えてしまったのは、果たして正解だったのだろうか。

2016.06.03
※沖薫だと思ってるのは沖田だけっていう話


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