唇ではさむ愛情

兄貴に用があって、俺は廊下を急いでいた。角を曲がったところで、思いがけない感触が足の裏を襲う。視線を下ろすと、そこで沖田がすやすやと気持ち良さそうに寝ていた。踏んだのは、沖田の着物の裾だったようだ。

沖田自身も、おそらく元々は寝るつもりじゃなかったのだろう。かなり不自然な場所だ。
今度は視線を上げる。太陽が眩しかった。もう冬だっつーのに、今日は暖かい。だから思わずうたた寝してしまうのも、分からないではなかった。

でも俺は兄貴に用があるんだ。
そう思って沖田を跨いで何歩か進んでいったのに、結局俺は踵を返して自室に戻っていた。そこから掛け布を引っ張り出し、再び沖田の元へと向かう。
いくら暖かくなってきたからって、さすがに風邪を引いちまうんじゃねぇかと思ったからだ。

別に沖田が体調を崩してもどうでもいいはずなのに、何してんだ俺は……。自分の感情の違和感には気付いていたものの、せっかく持ってきたのだからとしゃがんでその布を沖田に掛けた。
いい加減に兄貴のとこに行くかと、立ち上がりかけた俺の上半身が何かに引っ張られる。不思議に思って見下ろした先に、俺の着物の袖を掴む沖田の指が見えた。
はぁ? 何だこいつ、起きてんのか?
けれど沖田は相変わらず無防備な表情で、すやすやと寝息を立てている。

おいおいふざけんなよ、何してんだよこいつ。……俺はこのとき、たしかにそう思ったはずだったんだ。
それなのに、兄貴に大事な用があるというのに、どうしてだかその手を振りほどけなかった。

結局その後沖田が目を覚ますまで、俺はただ困った顔で隣に座り続けていたなんて、我ながら意味が分からねぇ。
目覚めた沖田からの「三木くんて暇なんだね」の言葉に腹を立て、お前に口付ける時間くらいは持ってるぜと言ったあと、返事に窮した沖田はなかなか悪くないと思ったけれど。

2017.11.28
title/Lump様


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