しょうがなくて愛しい
左之を夜の飲みに誘うつもりで歩いてる途中、総司の室の前の縁側で総司が寝ているのが目に入った。そういやさっきまでやけに暖かかったんだよなぁ、と納得はしたものの、まだ昼間なのにどんどん気温が下がって肌寒くなってきている。
このまんまじゃ体調を崩すんじゃねぇかと心配になり、起こしてやろうかと思った。けれどいざ寝ている総司の顔を見ると、随分と気持ち良さそうで起こすのが可哀想になる。
少し悩んで、俺は自分の着ているものを脱いだ。
これなら俺の体温で温まってるし、掛けてやれば安心だろう。
総司を起こさないよう気をつけながら、そっと俺の服を掛ける。左之にはいつも俺の行動はガサツだと注意されているが、総司は何も気づかず眠ったままだ。
どうだ、俺だってやれば出来るんだ。
早速このことを左之に自慢してやろうと、総司を通り過ぎて意気揚々と進んだ俺はすぐに思いっきりずっこけた。
驚くほど大きな音を立てて、俺の額が縁側にぶつかる。しかも上に着ていたものは脱いでしまっているから、同時に打ち付けた胸元も割と痛い。
「いっ……てぇ〜、何だ? 何でだ??」
上半身を起こし、恐る恐る振り返る。
原因の究明も大事だが、大きな音を立てたせいで総司を起こしてしまったんじゃないかと心配になったからだ。
あぁ、何てこった……
「……新八さん?」
寝起きのぼんやりとした表情で、こっちを見ている総司と目が合ってしまった。また左之にガサツだと言われるに違いない。
「あー悪い、悪かったな総司、起こしちまったか? 起こしちまったよな? すまねぇ!」
「あれ? 僕、寝てたんですか? じゃ、新八さんのこと通せんぼしちゃってたんだ」
「何言ってんだ、お前が邪魔なわけあるか! それより昼寝の邪魔して悪かったな」
「いえ、そんなこと……あ、僕が新八さんの裾掴んじゃってたんですね」
総司に言われて足元を見ると、確かに総司の手が俺の服の裾を握り締めていた。だから転んじまったのか。
「ところで新八さんは、どうして上に何も着てないんですか?」
「え? あぁ、それは、その……」
口ごもる俺を不思議そうに見ながら、総司もむくりと起き上がった。同時に、俺がさっき総司に掛けた上着がぱさりと落ちる。
それを見た総司が、きょとんとした顔で俺の服を見ている。いたたまれない。
起こさないよう慎重に羽織らせたというのに、直後に結局俺が起こしてしまうなんて。
「寒いんじゃねぇかと思ってお前に掛けたんだけどよ、必要なくなっちまったな」
「……これ、まだあったかいですね」
「今掛けたばっかなんだよ」
ばつの悪そうに言う俺を、総司がじっと見つめてくる。あー絶対俺のことどうしようもねぇやつだと思ってる、そうに違いない。最悪だ。
そんなつもりじゃなかったんだと言いたいけれど、言うのもみっともないから何も言えない。
不意に、総司がくすっと笑う。
そのままくすくすと笑い出したかと思うと、新八さんて優しいんですねと嬉しそうに呟いた。
あぁやめてくれ、そんな可愛い顔を見せられたらどうして良いか分からなくなるだろうが。
「新八さんは寒くないんですか?」
「おうよ、今日も乾布摩擦はしてるからな! 俺のことは心配すんな!」
元気にそう答えた俺に、総司が幸せそうに微笑む。それから、「僕はちょっと寒いです」と言った。
「ならそれ貸しといてやるから、羽織っとけよ」
「服だけじゃ足りないですね」
「? どういうことだ?」
俺の質問には答えず、今度の総司はいたずらっぽく笑っている。
少しの間を置いて、やっと総司の言いたいことが分かった。
「寒いのか! そうか、寒いならしょうがねぇな」
言いながら、総司をぎゅっと抱き締める。総司のこの、抱き締めてくださいと素直に言えないところがまた可愛いのだ。
俺の胸の中では、「しょうがないのは新八さんの方ですよ」と総司が呟いていたけれど。
2017.12.05
▽素直にお願いをしてこない総司を新八は「しょうがない」と思っていますが、総司の方からきっかけを与えてあげないと新八が何もしないから、総司は新八を「しょうがない人(でも愛しい人)」と思っています、というお話。
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