合鍵
※SSLドアを開けるとそこには総司が居て、俺は吸っていた煙草を落としそうになるのをかろうじて堪えた。
「どうやって入った」
今、俺は外からドアを開けたんだ。つまり総司が居るのは、留守にしていた俺の家の中ってことになる。
総司は、女であれば一発で落ちそうな程綺麗な笑顔を作って、鈍く光る銀色の何かを見せてきた。
「合鍵♪」
「はぁ? 渡した覚えなんてねぇぞ?」
「うん、自分で作ったから」
「元の鍵はどうした、俺は肌身離さず持ってる筈なんだがな」
総司はくすくすと笑って「内緒」と言った。
「ねぇそれよりも、今日はもう用事無いんでしょ?」
「まぁ、急ぎの用ことは別にねぇけどな……」
そう答えてから、しまったと後悔する。
用があると言って追い返すべきだった。
「用はねぇけど帰れ、不法侵入は見逃してやる。生徒の分を弁えろ」
それだけ言ってキッチンに向かうと、総司が後ろからついてきた。お茶を飲もうと湯を沸かし始めた途端に抱き着かれてしまう。
「……何してんだ?」
「お湯が沸くまで、こうしてていいでしょ?」
「いい訳あるか、とっとと離れろ」
「土方さん、口だけなんだもん。嫌なら引き剥がせば良いのに」
「いいから帰れよ」
総司がやぁだと言ったのを最後に、互いに何も言わなくなった。何してんだ、俺達は。
いや、俺だ。
俺は何で総司を振り払えないんだ?
静かな室内に、こぽこぽとお湯の沸く穏やかな音が響き始めた。
もう火を止めるべきなのに、止めたら総司が離れちまう。
「お湯、沸いたね」
「あぁ」
「止めないの?」
「止めるさ」
「僕が邪魔?」
「邪魔だ」
背中の温もりが消えた。
総司が離れたんだ。
俺は火を止め、気にしない振りをしてポットに湯を注ぐ。その間に総司は俺の横に移動していた。
日本茶を淹れたかったのに、切らしていたので貰い物の紅茶を入れた。茶葉が開くのを待っていると、ねぇと声を掛けられた。
「じゃあさ、僕のこと……好き?」
なぁにが「じゃあさ」だ。話の流れと全然関係ねぇじゃねぇか。
そう言ってやろうと総司の方を見た。そしたら当然目が合うことになって……
俺は、何も言わずに総司に口付けていた。
唇を離してから「嫌いに決まってんだろ」と言ったら総司は笑った。
笑って、そして俺に手の平を見せてきた。
その手の中には鍵が二つ。
一つは総司が勝手に作った合鍵で、もう一つは……。
「俺の鍵じゃねぇか!」
総司は楽しそうに笑って
「土方さん、案外無防備なんだもん。すぐ盗めちゃう」
と言いながら鍵を俺に渡し、何故か合鍵も一緒に渡された。
「?何だ、要らねぇのか?」
「ううん、土方さんから渡されたいなって」
「渡されたいも何も、これはテメェが勝手に作ったもんだろうが!」
「そうだけど、土方さんの許可が欲しいの」
「なら渡さなくていいんだな? 没収に決まってんだろ、もう来んな」
「僕が作った合鍵、一つだけだと思ってる?」
これを渡しても渡さなくても、結局こいつは来るってことか。
俺はわざとらしい程盛大な溜息を一つ吐いた。
「勝手に入ってくんな」
そう言って合鍵を渡す。
「勝手に入れないなら合鍵の意味無いのにー」
ぶつぶつ文句を垂れつつも、嬉しそうな表情の総司を見て、可愛いと思うなんて俺も全くどうかしている。
拍手掲載:
2017.04.11 - 2017.05.19
戻る