真昼にひかれるきみが星

総司と手を繋いで昼寝をしていた次の日、総司が風邪を引いてしまった。
あのときの俺は総司と手を繋いだままでいたかったから、どんなに天気が良くてももう肌寒い季節だってことを忘れて、総司が目を覚ますまでずっと放っておいてしまった。
総司は寒くなるとすぐ咳をするし、あんまり身体が丈夫なわけじゃないって知ってたはずなのに、俺は自分の願いに必死で、総司のことをちゃんと想ってやれてなかった。

実は俺がそんなことをしてたなんて知らない総司は、一緒に昼寝をしただけだと思っているようで、俺を責めてくることはなかった。
……総司は知ってても、責めてこない気がするけど。

だけど、すごい罪悪感。
俺のせいなんじゃないかな、と思う。いや、絶対俺のせいだ。そうは思うのに、やっぱり総司に嫌われたくない俺は、素直に謝りに行けなかった。
それでも総司が心配で、せめてものお詫びにと貯めてたお金をつぎ込んで、金平糖を買って来た。それを持って総司の部屋までお見舞いに行く。

見てると自分で食べたくなってしまうのをぐっと堪えて、総司の部屋に顔を出した。
金平糖を見て喜ぶ総司の顔が見たかったのに、残念ながら総司は寝ている。その枕元には水を入れたたらいがあって、すでに誰かが看病したあとのようだった。

総司の額には折りたたまれた布が乗せられている……あ、ずれてる!
慌てて総司のそばに行き、その布に触れるともう温かくなっていた。乗せられてから時間が経っているのかもしれない。
布を取ると、総司の前髪の一部が濡れて額に張り付いている。その髪を撫でてずらした。少しでも早く熱が下がるように、布が当たる面積を広げたかったからだ。
取り上げた布をたらいの水に浸してぎゅっと絞る。改めて冷たくなったそれを、総司の額にゆっくり乗せた。

……どうしよう。
総司は寝ちゃってるし、これ以上出来ることなんてないよな。寝てた方が良いだろうから起こすわけにもいかないし。
だけど総司のために何かしたい。
部屋を見回してみて、自分に出来ることを探してみた。でも何も見つからないから、今度は俺でも役に立てることを考えてみる。だけどそれも思い浮かばなかった。

俺って何でこんなに役立たずなんだろ。
落ち込んで下を向いたとき、布団からはみ出している総司の手が見えた。
昨日、その手が自分の手と繋がっていたことを思い出す。病気のときって、そういや心細いよな。手を握ったら、総司も少しは安心したりするのだろうか。

でもこれは、ただの俺の願望かもしれない。そもそも総司が今日風邪を引いたのだって、俺が手を繋いだままでいたいなんて思ったせいだ。
手を握ろうとすることが、自分の欲望なのか、それとも総司を想ってのことなのかが分からなくて、俺はその場で悩んでいた。

「…………平、助?」

不意に幽かな声がした。
総司の顔を見ると、薄っすらと目を開いて俺のことを見ている。

「あ、総司! 悪い、起こしちまったか? うるさくしたつもりはないんだけど……」
「ふふ、今日も平助は元気だね」
「ごめん、俺うるさいよな」
「うるさいなんて言ってないよ」
「じゃあさ、じゃあさ! 何かしてもらいたいことない? 俺に出来ることなら何でもするから、遠慮なく言ってくれよな!」

前のめりになってそう言った俺に、総司がちょっと困ったように「そうだなぁ……」と呟く。
もしかして、こんなこと聞くことが迷惑だったのかな? 俺は少しでも総司の役に立ちたいと思っただけだったんだけど。

「平助が嫌なら、無理にとは言わないんだけどさ」
「えっ、何? 何かあんの? 嫌なんて言わねぇって! 何でも言ってよ!」

夢中になってそう答える俺に、総司が嬉しそうに微笑んだ。

「手、繋いで」
「え?」
「……嫌だなんて言わないって言ったよね?」
「ち、違ぇよ、嫌だなんて言ってねぇって! 手だろ? 繋ぐよ、ほら!」

俺はちょっとわざとらしいくらいに、総司の手を強く掴んだ。俺のよりもずっと温度が高い総司の手に、また罪悪感が湧いてくる。
こんなに熱があったら、辛いんじゃないかな。

「平助さ、今日は他に用事無いの?」
「無いけど、どうかした?」
「なら、このまま繋いでてくれる? 手……」
「えっ⁉」
「……さっきも言ったけど、嫌ならいいから」
「俺もさっき言ってるけど、嫌なんかじゃねぇって! 総司が離せって言うまでずっと繋いでるよ!」

総司がまた微笑んでくれた。俺の願望が入っているのか、それとも見間違いか分からないけど、その顔はすごく幸せそうに見えて、俺はもっと幸せになる。
うん、と小さく頷いたと思ったら、総司はまた眠りについてしまった。

昨日に続いて繋ぐことの出来た手。
今日は総司が起きてからも、繋いだままでいて良いんだ。
起きたら金平糖があるよって言わないと。
そうしたらきっとまた、総司は幸せそうに笑ってくれると思うんだ。

2017.12.10
お題/エナメル様


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