溶かす熱
思わず、だった。ついこの間、総司に自分の想いを伝えてしまった。言う気なんてなかったのに、死ぬまで隠しておくつもりだったのに……そこまでの覚悟をしていたはずが、どうして我慢できなかったのか。
驚いたのは、総司が俺の想いに応えてくれたことだ。
信じられなかったが、総司が俺を揶揄う頻度が格段に減ったのは事実だった。つまりこれは現実なのだ。俺たちの今の関係は、恋仲ということになる。
とはいえこれまでの関係を突然崩すのもおかしい気がして、俺は普段と変わりない態度を取っていたのだが、総司は無防備な笑顔で俺との距離を簡単に詰めてくる。
今だって、そう大した用もないくせに「ねぇねぇ土方さん!」と声を掛けて、俺の隣を歩いている。
だからそう、思わず、だった。
総司より半歩前に出ていた自分の身体を反転させ、総司が一歩踏み出したところを掬うように抱きしめた。
何が起きたのか分からないでいる総司の唇を、掠めるように奪う。
「え、土方さん……?」
総司の驚いた目の中に、嫌悪感がないことを確認してほっとする。
間近にあるその顔が、みるみる赤く染まっていくのが愛しくてたまらない。
俺から視線を外した総司が、小さな声で文句を言った。
「こ、こんな場所で……」
言われて気づいた、ここが外廊下だったことに。
誰が通るとも知れないし、高い場所にいる者からは丸見えだったろう。
誰にも見られていなかったか、確認するために見上げた視線が白いものをとらえた。
「総司、雪だ。初雪だな」
「え、ほんとうですか?」
俺に抱きしめられた格好のままで、総司が顔だけ空へと向ける。吐く息も雪のように白い。
道理で寒いわけだ。
「寒いか?」
「僕は、別に……」
「ならもう一回、ここで口付けて構わねぇか?」
「なら、ってどういう意味ですか? 寒さと関係ないじゃないですか」
「お前が寒いなら、部屋に入ってからにしようと思っただけだ」
部屋に入って、という言葉から、きっと口付けより先のことまで考えてしまったのだろう。総司の顔に改めて熱が灯った。
ずっと生意気なことばかり吐き出していたその唇が、恥ずかしさで震えていることに胸がいっぱいになる。
どうせ待っていても、総司は何も答えないだろう。
そう判断した俺は、断りもなくもう一度総司に口付けた。今度は掠めるような軽いものではなく、しっかりと俺の熱が伝わるように。
顔を離して総司に囁く。
「……やっぱり寒いな、部屋に行くか」
頷くだけだと思っていた総司が、「そうですか?」と首を傾げた。
「僕は、溶けちゃいそうなんですけど」
2017.12.14
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