月を食む
※「采配のゆくえ」(koei)のパロ※大谷吉継が斎藤、藤堂高虎が沖田
※大谷吉継は目が見えず、右側の肌が爛れています
僕と同じように夜空を見上げた一君に「見えてるの?」と訊いてしまった。
その瑠璃色の瞳が何も見えないのを僕は知っているのに……。
それでも、余りにも自然な動作で月へと目を向けた一君に、もしかして、と思ってしまったんだ。
「いや、見えはしない」
「じゃあどうして見上げてるの?」
「まだ目が見えていた頃の月を思い出すからだ」
「……思い出だけじゃ、辛くない?」
そう訊くと、一君は口の端を少し上げて言った。
「思い出とは、時が経つにつれどんどん美しくなっていくものだ」
だから、と続けて僕に言う。
「今あんたが見ている月より、俺の記憶に残る月の方が恐らく美しいだろう」
その横顔は月より美しくて。
「じゃあ、僕の前から一君が居なくなったら……、一君は今よりもっと綺麗になるのかな」
「そうだろうな。その方が、お互い良いのではないか?」
近く訪れる自分の死を、享受している一君は淡々とそう告げる。
僕は呼吸が乱れた。
「嫌だよ! どんなに醜くなっても、朽ちる時まで僕の傍に居て欲しい!」
僕の何よりの望みを強い口調で告げたのに、一君は静かに口の端を上げ
「その言葉は、俺の中で美しく残るだろうな」
とだけしか返してくれなかった。
それは僕を思い出にするのだと示唆していて、例えその目が僕を認める事が無くても僕だけを映して欲しいから、一君の顔を引き寄せ、瞼を開かせた。
瑠璃が揺らめき僕が映るけど、焦点の合わないその目はやっぱり僕を認識していない。
僕は一君に顔を寄せ、右の頬に口付けた。
ぴくりと震えた一君は「よせ」と言ったけれど、僕は更に口付る。
冷えた頬の感触は、月を食んだような気にさせる。
今夜の口付けは、僕の中で美しく育っていくのだろう。
2010.03.18