隣に君がいるから

とても暖かい日だった。

気持ち良い日差しに眠気を誘われる。
実際歩いてる今も眠ってしまいそうで、どうにか耐えて僕はお団子を買った。


「斎藤君と縁側で食べよう」


思わず独り言も出ちゃうくらい、良い陽気だった。
最近僕達は忙しかったから、少しは息抜きしないとね。


屯所に戻って真っ先に斎藤君の部屋に向かう。
僕の足取りは随分軽く、陽気に負けない位浮かれている自分を知る。
でも、斎藤君の部屋の前には先客が居た。


「ねーねー一君! 外行こうよ、気持ち良いよ!」


出遅れた……。
きっと斎藤君は出掛けちゃうな、と思っていたら


「悪いが平助、今日は出る気は無い」
「えーこんな天気良いのにぃー?」
「すまない、また今度……」
「そっか、分かった……。じゃあ俺、出掛けてくるね!」


残念そうにしながらも、陽気に勝てずに外を選ぶ平助。
そんな平助と入れ代わりに、僕が声を掛ける。


「斎藤君、お団子買って来たんだ。縁側で食べない?」
「そうだな、頂こう」


それからお茶も入れて、僕等は並んでお団子を食べる。
お互い黙って庭を見ていたけれど、ふと気になって僕は質問をする。


「何で平助の誘いを断ったの?」
「今日は暖かいから、寝てしまいそうで……」


僕は思わず笑ってしまった。


「へぇ、僕と一緒だね」
「そうなのか?」
「うん、僕も寝ちゃいそう」


それからはぽかぽか差し込む日差しを二人で浴びて、何を言うでもなくあったかい気持ちでぼんやり過ごした。
一本目のお団子を食べ終えた僕は、二本目を取るついでに斎藤君の顔も見てみる。
長い睫毛をしばたいて、眠そうにしているその表情は何だかとても心地良さそうで、僕をにわかに幸せな気持ちにさせた。
その時、突然平助の言葉を思い出す。

"一君、外行こうよ"―――


「……ねぇ、僕も斎藤君のこと、一君て呼びたいな」


突然の僕の呼び掛けに、斎藤君はこっちを見て答える。


「断る理由など無いが……」
「じゃあ今から一君ね?」
「あぁ」


きっと呼び方なんて大した事じゃない。
でも、今の僕には何だかとても大切な変化な気がするんだ。


「ねぇ、一君」
「何だ」
「……ううん、呼んでみたかっただけ」
「そうか」


僕だけが一君と呼んでいる訳でも無いのに、何でだろう?
馬鹿みたいに喜んでいる自分が居る。


「……ねぇ、一君」
「何だ」
「お団子、美味しいね」
「あぁ」


眠気を我慢して買いに行って良かったな。


「今日は暖かいね」
「あぁ」
「明日も暖かいといいね」
「あぁ」


一君は「あぁ」しか答えてくれない。
どうせなら、と少し悪戯心が湧いた。


「一君て僕のこと好きだよね?」
「あぁ」
「僕のこと、大好きなんだよね?」
「あぁ」
「……聞いてる? 一君」
「あぁ」


本当かな。


「土方さんて、邪魔だよね?」
「何を言っている、副長が居なければ新選組は……」
「何だ、ほんとに聞いてたんだ」
「そう言った筈だが」
「だって何言ってもあぁしか言ってくれないから」
「少し考え事をしていたからな」


僕は少し寂しくなった。
一君と話していると僕はとっても嬉しいのに、一君は僕以外の事を考えているんだね。
それでも一君が何を考えていたのか気になってしまう僕。


「ふぅん、何考えてたの?」
「団子が美味いのではなく、あんたと食べるから美味いのではないかと……」


どうしよう。
これからお団子を見る度に思い出しちゃいそうだ……。


束の間の休息は、幸せな昼下がり。

啜るお茶を美味しく感じるのは、きっと隣に君が居るから。


2010.02.07
+小鳥遊様へ捧げます

.