伍月弐拾参日

総司、と呼ぶ声が僕に圧し掛かってくる。
重量なんて無い筈のそれに、どうしてだか拘束されて僕は動くことが出来なかった。

目の前の小柄な彼は、好きだと言いながら僕に口付けをし続けている。唇が離れれば吐き出されるのは消え入りそうな「好きだ」、直後にまた唇。
可哀相になるくらい必死な彼は、僕が否定の言葉を紡ぐのを恐れているのかもしれない。

「一君」

意を決して彼の肩を掴む。
びくりと震える小さな身体を、愛おしいと思った。

「……聞きたくない」
「えっ、何を?」
「総司が、俺を嫌いになったという言葉を……」
「言わないよ、そんなこと」

意外そうな表情になった一君が僕の目を見た。
吸い込まれそうな程純粋な色を湛えたその瞳に、僕の視線は釘付けになる。

「あのね、今日は口付けの日なんだって」

だからいっぱいしようか、と提案した僕を一君は不思議そうに見詰めている。
それから何十秒も掛けて思案して、漸く理解出来たのか「あぁ」と嬉しそうに笑った君を、僕もきっと好きなんです。


2016.04.07

5月23日=キスの日。
なので、沖斎でキスの日ネタを。
来月まで待てば良かったと後悔しつつ。

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