僕だけが知っていればいい
「ねぇ、一君は分かってる?」「……何をだ」
問い返してくる声が小さいのは、僕が何を言いたいのか分かっているからだと思う。それでもこうして白を切る様がやっぱり可愛い。
「僕が心配してるってこと、一君は分かってるの?」
「だから、あんたは何が心配なのだ」
「僕ばっかり好きみたいで、心配なの」
そう言うと馬鹿めと怒られて、呆気無く仕事の話で誤魔化されたから、甘い雰囲気になるのは諦めようとしたその時、やけに本気な口調で「好きに決まっている」だなんて狡いと思うんだけど。
そんなことをするから、やっぱり僕ばかりが好きみたいで心配になるんだよ。
恥ずかしそうにするくせに、酷く澄んだ目をする一君のことは、僕だけが知っていればいいのに。
誰に対しても真面目に接する一君は、きっとその綺麗な目を他の人にも向けてしまうから、僕の心配は消えることがないんだ。
2016.04.11