その言葉には
※人身売買パロ/斎+沖
「そこの、翠の目をした男が欲しい」
僕を買ったのは、蒼い瞳をした男だった。
入れられていた檻から出され、その男について行く。
外の世界はどんなものなんだろう……
ずっと夢に見ていたのに、手にした現実はつまらないものだった。
蒼い瞳の男は僕に何も望まない。
ただ、日々小さな用事を申し付けるだけ。
そんな退屈が続いたある日、
「少し、話をしないか」
お金で僕を買ったくせに、まるで同等の人間みたいに扱うそいつに頭にきた。
「お金を出したからって、僕の心まで買えたなんて思わないでよ!」
もしかしたら怒るかなと思ったけれど、その男は静かに僕に告げた。
「俺はあんたを買った訳ではない」
「じゃあ何を買ったっていうの!」
「あんたと過ごす人生を買ったのだ」
この言葉に、どきりとしたのを覚えている。
「……ふ、ふぅん、じゃあこれからも僕と一緒に居たいんだね?」
「あぁ」
「そう、僕は欲しいものがあるんだ。それをくれるなら、一緒に居てあげてもいいよ」
「何をすればいい?」
「好き、って言って」
僕は毎日檻の外を見ていた。
外の世界では沢山の人が歩いていて、中でも忘れられないのは「好き」って言葉。
男の人が女の人に「好きだよ」って言うと、言われた女の人は、まるで花が綻ぶように微笑んで、それを見た男の人は言う前より嬉しそうな顔になって、また「好きだよ」って繰り返すんだ。
僕は気付いた、「好き」って言葉には呪(まじな)いがかかってるんだって事に。
僕が今迄笑った事が無いのは、誰からも好きだなんて言われなかったからなんだ。
だけどその言葉さえあれば、あんな汚い場所にいた僕だって花のような笑顔を作れるに決まってる。
僕も笑ってみたい。
好きって言ってもらえれば、それが叶うんだ……
ずっと、そう思っていた。
「好きだ」
僕は、笑えなかった。
「どうした、総司」
蒼い瞳が近寄ってくる。
「何故泣いている、俺は何か間違ったのか?」
「一回じゃ……いやだ……」
やっぱりこの言葉には呪いがかかっていた。
「好きだ、総司。好きだ、好きだ……」
考えてたよりずっと強い呪いが――
だって、涙が止まらない。
「毎日言って……」
少し落ち着いてから僕がそう頼んだら、
蒼い瞳のその男は、花が綻ぶように微笑んだ。