いじわる

※現パロで社会人設定
※風斎というより風←斎


その男に出会ったのは、いつもより二本早い地下鉄の中だった。
普段乗るよりも少しだけ空いていて、だからだろう、その色素の薄い髪が見えたのは。

偶然と呼ぶには、俺の目も心も余りにも囚われていて、まるで運命という名の必然に思える。

人の流れに身を任せる振りをして、それとなくその男の近くに寄った。
側に寄ると着ている物も目に入り、仕立ての良い上質なスーツが近寄る事すら躊躇わせる。

その時、調度人に押された。
それを良いことに俺は男の隣に立ち、混んでいるからと自分への言い訳をして、片腕をくっつけた。

触れた場所がひどく熱い。
彼の体温が高いのかと思ったが、そうではなく、俺が意識し過ぎて熱く感じているだけのようだ。

鼓動が速まる。
隣の男に聞こえてしまいやしないかと不安になった。

地下を走る電車は、駅に着くまでは窓が鏡のようになる。
そっと窓に目を向けてみたが、男は俺になど全く気に留めていないようだった。

少しだけ、がっかりした。
だが男の俺がこんな気持ちでいることがバレてしまっては、それこそ問題なのだからほっとするべきところなのかもしれない。

それから二つ先の駅で、男は降りた。
出て行く男の後ろ姿を目で追って、明日からもこの時間の電車に乗ろうと心に決める。

拍手ログ@掲載期間
2010.10.21 - 2010.12.01

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