無意味な抵抗

手首を掴まれた、
と思った次の瞬間には口付けられていた。

手を離せ、と何故こんなことをしてくるのだ、という二つの言葉のどちらを先に言うべきか悩んでいる間に、顔の角度を変えた風間から再び唇を落とされることになる。
無理矢理顔をずらし、何をするのだと問い詰める俺の言葉に被せるように告げられた「好きだ」が、俺の鼓膜と心臓を、いとも容易く震わせた。

「……順序が、逆ではないのか」

かろうじて出した言葉は、けれど風間に塞がれてしまった。今度は少しだけ舌が差し入れられて、それを思わず受け入れそうになり慌てて押し返して止めろと注意をする俺に、風間が不思議そうな目を向けた。

「何故だ?」
「順序が、おかしいと……言っている」

俺の言い分に少しだけ悩む仕草をした風間が「だが、」と言葉を続けた。

「俺はもう、好きだと言った筈だ」

だからしても構わないだろうと、訳の分からない理屈を翳してまた俺に口付けをしてくる。
風間の肩に置いた俺の手は形だけの抵抗を見せ、けれど所詮形だけだったそれは直ぐに風間の肩を掴んで別の意思を告げていた。
もっとして欲しいと、俺の指先が強請っている。
そんな事をせずともきっと、風間はしつこかったに違い無いのだけれど。

2013.05.17

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