それはホリック

※SSL


「苦ぇ……」

こいつは間違い無く、今、日本で一番渋い日本茶だ。
斎藤が泊まりに来た、ただそれだけのことが、どうやら俺を随分と浮かれさせているらしい。

「おい、飲まなくていいぞ……」

呼び掛けた時、既にお茶は斎藤の口の中だった。その余りの苦さに目をぎゅっと瞑り、それでも無理してごくりと飲み込んだ斎藤の顔に、別のことを連想しちまう俺は、駄目な大人だろうか?

「悪い、斎藤。茶葉の量間違えちまった」
「あ、いえ……」

俺の煎れたもんを残すのは悪いとでも思ったのだろう、斎藤はまたお茶に口を付けた。

「ばか、こんな濃いもん飲むんじゃねぇ!」

俺は慌てて斎藤の手から湯呑みを奪う。

「でも、先生が煎れて下さったものですから……」

やっぱりか。

「いいんだよ、それより風呂でも入ってくるか?」
「え……」

斎藤がにわかに頬を染める。

「何だ、一緒に入りてぇのか?」

揶揄うように訊いてみると、目許まで顔を赤くした斎藤が慌て始めた。
いま一緒に風呂なんか入ったら、恐らく俺の方が危険なことになる。

「冗談だよ、ゆっくり入ってこい。俺は寝る準備しとくから」

ぽんと斎藤の頭に触れ、俺は余裕の態度で寝室へ向かった。見ちゃいねえが、斎藤は今、きっと少し寂しそうな顔をしているに違いない。
こんな斎藤を知ってるのは、校内でも俺一人だ。そう思うと、少しくすぐったい気持ちになる。そしてきっと……俺をこんな気持ちにさせるのも、校内で斎藤一人だ。

ご丁寧にパジャマ持参の斎藤に、俺は眩暈がした。清楚な色のそのパジャマは、まだ折り目が付いていて……折り目? まさか……。

「それ、新しく買ったのか?」
「はい、先生の前でみっともない格好など出来ませんから」
「……修学旅行にんなモン持ってくんじゃねぇぞ、絶対ジャージで寝ろ。いいな?」
「何故ですか?」

可愛過ぎるからだなんて言えない。まさか斎藤にここまで翻弄されるとは思ってもみなかった。尊敬の眼差しを向けてくるこいつに、取り乱す俺を見せる訳にはいかなくて、少し呼吸を整えてから余裕の表情で斎藤に向き直る。

「わざわざ持って来てもらっても、すぐ脱がせちまうんだがな」

そう言って、返事も待たずに斎藤を引き寄せ口付けた。こっちのペースに持っていけば……そう思ったのに、唇を離した時に恥ずかしそうに睫毛を伏せる斎藤の顔にわ俺のペースはあっさりと乱されてしまう。

本当はたっぷり前戯を楽しむつもりだった。斎藤を可愛がって、甘やかして、気持ち良くさせてーーその筈だったのに、俺の我慢がききそうにない。すぐに全てを脱がせ、斎藤の中心を口に含む。

「あっ、土方せん、せ……」

初めての刺激と強すぎる快感に付いて行けないのか、斎藤は足をばたつかせて俺から逃げようとする。両脚共手で押さえつけ、斎藤自身を口だけで激しく扱いた。

「アっ、あ、や……先生、ダメです、先生っ……!」

呆気無く俺の口に、斎藤の欲が吐き出される。迷わず飲みこんだ俺を見た斎藤が言う。

「せ、先生に、俺も……」
「何言ってやがる、初めてで出来る訳ねぇだろ? 無理すんな」
「でも、本にはそうすれば相手が喜ぶと……」

その言葉に呆気に取られた。本とは、勿論古文の教科書ではないだろう。

「何読んで来たんだ、斎藤?」
「あ、その……、何も知らないようでは先生にご迷惑かと……」
「ったく、お前は俺だけ知りゃいいんだよ。他の情報なんか見るんじゃねぇ」

分かったか、と聞くと潤んだ目でこくりと頷かれる。全く、この顔だけでイけそうだ。それからゴムを取り出した俺の腕を、斎藤が掴む。

「土方先生……、そのまま挿れて欲しいです」
「あのな、こういうのはきちんとしねぇと」
「先生を、直接感じたいんです……いけませんか?」

葛藤なんて、する意味も無かった。

「それも本に書いてあったのか?」
「ち、違います!」
「だったら何でそんな煽んのが上手いんだ? 初めてじゃねぇってのか?」
「違っ……先生が、好きだからです」

それから斎藤を解そうとしたのだが、斎藤がいきなり起き上がり、恥ずかしそうな顔をしながらも「やっぱり俺もします」と言って俺自身を咥え込んだ。
斎藤のまさかの行動に驚き過ぎて、斎藤を俺から引き離すのを忘れてしまう。

その拙い行為に斎藤の一生懸命さを感じて、堪らない気持ちになる。多分、今迄された中で一番下手な愛撫に、俺は今迄で一番早く極まってしまった。
慣れない斎藤に悪いとは思ったが、斎藤を離すのも嫌で、俺は自分で少し動き、斎藤の口の中に出した。
でも飲ませるつもりなんて無かったんだ。だが俺が何も言わないうちに、斎藤が必死に飲み込もうとする。

「馬鹿、吐き出せ!」

慌てて言ってみるも、斎藤は目をぎゅっと瞑り、無理してごくりと飲み込んでしまった。その顔は渋過ぎる日本茶を飲んだ時と同じ顔で、俺を想ってしているのだと感じずにはいられない。
もう我慢なんて出来ずに、斎藤を押し倒す。
慌てる気持ちを必死に抑え、けれど早急に斎藤を解しにかかる。初めて異物を受け入れた斎藤の中は、俺の指を飲み込むなりこれでもかと絡んできた。これから俺自身がこの中に入るのかと想像しただけで、達したばかりの俺がすぐに熱を帯び始める。

早く挿れたいという気持ちを、俺は随分我慢したと思う。それだけ斎藤を充分に解し、ゆっくりと挿入を開始した。
斎藤に口でされていた時より遥かに膨張したそれは、斎藤の顔に苦悶の表情を浮かべさせる。
可哀相な気持ちも湧くが、どうにも止められず身体を進めたというのに、途中まで入れた段階で斎藤が可愛いことを訊いてきた。

「そ、そんなに大きいのが、本当に入るのですか?」

その言葉で、俺自身が更に膨張してしまう。容量が増した俺の進入は困難になり、一度引き抜くしかなくなった。

「っ、煽んじゃねぇ! 挿れらんねぇだろ!」

こっちが恥ずかしくなるほど余裕が無い。すみませんと呟く斎藤を再度解して、もう一度挿入する。凄い圧迫に、はっ、はっ、と苦しそうに息をする斎藤は、それでも最奥まで俺を受け入れた。突き上げたい気持ちも必死に抑え、ゆっくりと腰を動かしていく。息苦しそうにしていた斎藤も、徐々に声を上げ始めたので、斎藤に重なるようにして動きを速めていくと、斎藤が俺の背中に腕を回してきた。
けれど回された腕は、俺の背に添えるように置かれるだけで、こんな時でもまだ斎藤は教師である俺に掴まる事を躊躇っているようだった。
斎藤らしいその動作を可愛いと思う反面、夢中になってんのは俺だけなのかと、斎藤はこんな時でもどこか冷静なのかと、そう思わずにはいられなくて酷くもどかしい気持ちにもなった。

もっと行為に集中させたくて、斎藤の胸の突起を摘まみながら腰を動かす。途端、甘い声を上げた斎藤は、自分の上げた声に恥ずかしそうに頬を染めた。
その顔が可愛くて、摘まんだ突起を捏ねるように弄りながら腰の動きを速めると、背中に回した腕で必死に俺に縋り付いてくる。だから斎藤の背中に腕を差し入れ、抱き締めるようにして激しく突き上げた。
俺の耳元で甘い鳴き声を上げながら、斎藤が果てる。俺ももう限界で、その数秒後に斎藤の中に自分の欲をぶちまけた。

汗やら何やらで汚れた身体を流すために、今度は一緒に風呂に入った。
力の入らない斎藤の身体を洗っていると、また俺が元気になってきてしまう。それに気付いた斎藤が、無意識に俺を煽るようなことを言うので、風呂でもう一度してしまった。
斎藤がこれ以上無い程可愛く鳴くから、終わった後は、唇がふやけるほどのキスを繰り返す。

次の朝、先に起きた俺は朝食の準備をした。トーストにしようかと思ったが、和食に変更する。
準備が終わる頃、斎藤がキッチンに顔を出す。俺より遅く起きたことを申し訳なく思ったのか、それとも昨夜のことが恥ずかしいからなのか、複雑な表情を浮かべている。また頭を軽く撫でてやってから、斎藤を椅子に座らせた。
まず日本茶を出し、飲む姿を見る。今度はわざと濃く煎れた日本茶を、無理して飲み込む斎藤の顔を見て、俺は最高に幸せな気持ちになった。

「悪い、茶葉の量間違えちまった」

笑いながら言うと、斎藤が涙目で俺を見てくる。苦い味の唇に、甘い口付けをくれてやった。
煙草なんかより、よほど中毒になりそうだ。

2010.03.06
+白蘭様へ捧げます

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