眠れぬ夜は

俺は苛々していた。

苛々の原因が隊士達の腑抜けた精神にあるってのも気に入らねぇ。これが五日も続いてりゃあ、誰だって余裕なんざ無くなるだろう。そんな時、部屋に来たのが斎藤だった。

「副長、少し宜しいでしょうか」

夜も大分更けた頃、苛々して寝付けねぇ所に綺麗な顔が覗いてきた。

「何だ、こんな時間に」
「急ぎでお伝えしたいことがあるのですが……」
「入れ」

斎藤が急ぎというからにはそれなりの内容なのだろうと思い、近寄るよう促す。斎藤は俺の傍に正座した。

「何だ、言ってみろ」
「その……」

急ぎでと言って来たくせに、斎藤はなかなか口を開かない。
また俺の苛々が募る。

「用も無ぇのに来たってのか? 今、何時だと思っていやがる!」

強く言うと、斎藤はびくっと肩を揺らした。

「申し訳ありません、その、少し言いにくいのですが……」

そう言って目を伏せた斎藤に、何故か猛烈に腹が立った。
いきなり斎藤の腕を引き、強引に布団に組み敷く。

「副長……?」
「言いにくいってんなら、近くで聞いてやるよ」

その驚いた目にも苛々した。
無理矢理斎藤の袷を開き、有無を言わさず斎藤自身を握り込む。

「えっ、な、何を……」

斎藤は俺の急な行動に驚いた声を上げるが、無視して扱き出す。途端に斎藤の声が甘いもんに変わる。
その声にも、何だか苛々した。

恐らく人に触られるのが初めてだったに違いない。斎藤は凄い速さで白濁液を吐き出した。
出す瞬間にふくちょう、と小さく喘いだ声が俺をまた苛々させる。達して荒い息をつく斎藤の顔を見て、更に苛々した。

……いや、分かってるんだ。
斎藤を見て感じるこの苛々が、興奮なんだってことくらい。
白い頬を紅潮させ、小さく副長……と呼ぶ声が、俺を熱くさせて仕方がねぇ。

「早く言ってみろ、斎藤。用件は何だ?」
「あ、その……」

はぁはぁと呼吸を乱しながら、潤んだ目で俺を見る斎藤に俺の熱が強まる。

「こんな夜更けだ、誘いに来たのか?」
「ち、違いま……」

恥ずかしそうに睫毛を震わす斎藤に、もう限界だった。

「時間切れだ、斎藤」

先程斎藤の出した液を指に取り、斎藤の窄みに塗り込んだ。いきなりの刺激に斎藤が身体を捩るが、その瞬間指を差し入れる。

「やっ、……何を」
「うるせぇ、こんな時間に来るお前が悪い」

自分でも無茶苦茶な理由だとは思ったが、斎藤を味わいたくて仕方なかった。性急に指を動かす。最初はキツかったが徐々に水音が聞こえ出した。
斎藤は喘いでいる。

「声出すんじゃねぇ。それとも覗かれてぇのか?」

そう言うと、恥ずかしそうな表情を見せてから、両手で自分の口を塞いだ。
この時、俺がもう少し冷静だったなら、斎藤の行動の不自然さに気付いただろう。しかしこの時は、とてもそんな余裕なんか無かった。
指を三本に増やし滑りが良くなった頃、指を俺自身に変える。けれど流石にまだキツく、途中でなかなか進まなくなった。

「おい、力抜け!」

言ってみるも、斎藤はどうして良いやら分からずふるふると身体を震わすだけだ。
仕方が無いので、斎藤自身を扱いてやる。すると少し余裕が出来たので、一気に奥まで突き入れた。

その衝撃で塞いだ口から漏れてしまう斎藤の声に、挿れたばかりの俺の質量が増すのを感じる。
斎藤もそれに気付いたのか、完全に涙目になって俺を見上げてきた。

――最高に、苛々した。

片足を持ち上げ、奥まで何度も捩じ込む。その度に俺達の肌がぶつかり合う音が響き、斎藤が声を上げなくても結局バレちまいそうだなと思う。
必死で声を殺す斎藤を見て、俺の興奮は増すばかりだった。

だから、余裕なんて無かったのだ。
斎藤に触ってやることもなく、何度も突き上げ俺は中で果てる。気付けば斎藤も果てていた。

「へぇ、後ろだけで達けるんだな、斎藤。男に慣れてんのか?」

自分でも意地の悪い質問だと思った。
最初の斎藤のキツさから、初めてだろう事は想像に難くないのだが。
斎藤は限界まで溜めた涙を、とうとう零して否定した。

「違います……」

そして、顔を隠すように横を向いてしまう。
俺は一先ず斎藤から自身を抜いて、汚れを拭き取る。
斎藤の中に出したもんをどうするか、と思っていると。

「お慕いしています」

か細い声で言われた気がした。
そんな馬鹿な、聞き間違いか? と思って斎藤を見ると、顔を横に向けたまま再度言われた。

「副長を、お慕いしています」
「な、何言ってやがる……」

流石に動揺した。
この状況でこの言葉は、余りにおかしいだろう。何故怒らない?

この時、斎藤が自分で自分の口を塞いだ時のことを思い出した。
そういやこいつは綺麗な顔してるが、女じゃねぇ。本気で暴れりゃ幾らだって逃げられたのに、何故抵抗しなかった? まさか本当に俺を……。

「今夜は……最近副長が苛々されているので、俺に何か出来ることがあればと思って参りました」
「斎藤……」
「少しでも、副長の、お役に立てたなら、俺は……」

語尾が涙声になっていた。俺は迷わず抱き締める。

「馬鹿野郎! それで抵抗しなかったってのか!」
「……副長が、好きです」
「くそっ」

斎藤の顔を無理矢理こちらに向かせ、涙を舐めとる。
それから優しく口付けた。何度も、何度も、斎藤が泣き止むまで繰り返し口付ける。

「ん……」

斎藤の声が甘く変わった頃、やっと唇を離した。

「悪かった、もうしねぇよ」
「俺は、副長のお役に立てるなら構いません……」

尚も俺のためにと言う斎藤に、また苛々する。

「これ以上、興奮させんじゃねぇ」

きつく抱き締めた。

「副長……?」
「俺も、お前が……」

小さな声で、本音を伝える。外で鳴く鈴虫の声に消されそうな俺の声は、けれど斎藤にはきっと届いたはずだ。
顔を上げると、斎藤は微笑んでいたから。

2010.02.13

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