歪んだ月
※風斎前提※羅刹斎藤×斎藤
「っふ、ぁ……」
高い声が上がる。
障子を開け放ち、月を背に自分に覆い被さっている男の白い髪は、酷く冷たそうに見えた。
触れてみればそんなことはないとすぐに判ったはずなのに、触れるのが怖くて斎藤はその温度を知らぬままでいる。
「声を上げるなと言ったはずだ」
呈された声に心が無い。月明かりを受け、目の前の白い髪が銀に光る。
傀儡のようなその男に翻弄され、意思を失う自分こそまるで人形のようだ。
「な、らば、さ、わる な……」
見た目から受ける温度とは裏腹に、斎藤自身を握るその手はいやに熱い。
緩やかに、時に激しく弄られて、声を抑えることなど出来ようはずも無い。
銀髪を揺らして男は嗤う。
「今宵、あんたは鬼と約束をしていたな?」
「…………」
「俺が何故、障子を開けていると思う?」
「っ、離れ、」
それまで朦朧としていた意識が、恋仲である風間の存在を示唆され、気だるさは急速に恐怖へと移った。
暴れる斎藤の腕を男が掴む。尚も逃れようと動いてみたが、全く功を奏さなかった。
何という力だと、冷や汗が流れる。
このままでは風間に見られてしまう、約束の刻まであと少し――
「離れろっ」
強く言い、目の前の男を睨む。
逆光であるはずなのに、その男の目の紅さだけは何故かはっきりと見えた気がした。
「あんたのような愚かな人間と、あの鬼が釣り合うとはとても思えぬ」
舌で唇を舐める仕草が、やけに目に付く。見ていたくなどないのに、目が離せない。黙っている斎藤に、男は続けた。
あんたを幸せになどさせない――
耳元で囁かれるのと同時に、指が斎藤へと侵入する。
馴らされてもいないそこは痛みを訴え、斎藤の口がそれを表した。
叫びに似たそれは、直ぐに喘ぎへと変わる。
白髪の男が嗤う。弧を描いたその口は、歪んだ月のように見えた。
2011.08.31