合鍵

足元の覚束ない一君を車から降ろす。
危ないからと言ってその手を取ると、やけに素直に握り返された。

お酒の強い一君がここまで酔うなんて、そんなに土方さんの転勤がショックだったのだろうか。
だとしたら、僕の方が余程ショックだ。
先日した告白の答えをまだ聞いていないけれど、これは答えが出たも同然かもしれない。

寂しい気持ちをひた隠し、一君の部屋の前まで連れて来ると鍵が見付からないと言う。
まともに探せているとは思えず、繋いでいた手を離して代わりに探し出した。
素面の僕はあっさりと見付け、扉を開けてあげたというのに一君は足を進める事無くまた僕の手を握ってくる。

「一君?」

どうしたの? と顔を覗くと随分と赤くなっていた。

「早くお水飲んでお酒抜きなよ」

そう促すと、首を振って先程よりも強く手を握られる。
どうしたのかと心配にはなったけれど、手を離すのも嫌で暫く繋いだままでいれば

「この間の……答えを……」

と呟かれて、僕は途端に緊張した。
わざわざ酔ってから言うのは答え難いからに違いない。きっと酔った勢いで断るつもりなんだ。だって一君が好きなのは……。

「あぁ、あれ? 忘れていいよ、一君は別の人が好きみたいだし」
「え?」
「そんなフラフラになるまで飲んで、よっぽど土方さんと離れるのがショックなんだね」
「違う……」
「何が違うの?」

それからは呂律の回りが悪くなった一君の言葉を理解するのに苦労した。
だけど一君が今日こんなに飲んだのは土方さんの事が悲しかったんじゃなくて、僕に返事をしようと思ったら緊張してしまったかららしい。
それを紛らわす為に飲み続けたら酔ってしまったと。

「何それ、そんな緊張する事?」
「俺も、好きだなどと……簡単に言える訳が無い」

直ぐには一君の言葉が理解出来なくて、僕は呆けたように立っていた。
けれど恥ずかしかったのか、一君が繋いでいる手に徐々に力を籠めてきたので、その痛みではっとする。

「えっ、僕の事好きなの?」
「……そう言った」

直後に指が折れそうな程手を握られて、酔っても結局緊張してしまっている一君が愛しくて堪らなくなった。
もう一度位好きと言わせたかったけど、それは今度素面の時にお願いしよう。

それから冗談めかして「合鍵欲しいなー」と言ったら「まだ早過ぎる」と怒られたけど、2日後の仕事終わりに照れながら渡してくれた。
実は僕も自分の家の合鍵を作ってきていたから、その場で交換をする。
同じ事を考えている僕達は、きっとこの先も上手くいくと思う。

* 拍手ログ@掲載期間 *
2010年08月10日 - 2010年10月21日

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