大事なのは


「あっ、ん、や……止めろよ、あぁはっ、早く離れろ!!」

 言いながらも合間合間に出てしまう喘ぎ声に自分で自分が嫌になる。後ろから俺を襲っている原田の息は乱れていて、多分俺に興奮しているんだと思うけれど、とても好かれてるとは思えない。
 大体原田の言い掛かりは酷いものだった。

「あ、あ、やめっ……そんなトコ突くなよ!」
「何だ? ここがいいのか?」

 そう言って、どうやら俺の敏感な部分を狙って突き上げ始めた原田は、つい先刻俺と会うなり「妹にばっかかまけてねぇで、ちっとは他に目を向けたらどうだ?」と言ってきた。
 「お前に関係無いだろ」と返したら、困ったような怒ったような不思議な表情をされて、それから俺をこの部屋に強引に連れて来たと思ったら、こんな事になって……。

「あっ、原田、止めろよ、もぅ、も…………あ、あぁ」

 怒ってる筈なのに、どんどん自分の声が甘くなってきてしまって凄く腹立たしい。腹立たしいのは原田じゃなくて、原田にこんな事をされて感じている自分自身。
 俺の声が高くなったのに気付いた原田は無言で俺の熱に手を伸ばし、迷う事無く扱き始めてくる。突き上げる動作は激しいのに、俺自身を擦る手の動きは酷く優しくて、その差がまた俺の感度を高めてくる。

「あぁぁぁ駄目だっ、原田、放せ、手ぇ放せよ!!」

 気持ち良さが怖くなった。こんな状況で達かされるなんて、俺はどうかしてる。
 嫌だ、無理矢理こんな事されて達きたくなんかない……。そう思って逃げようとしても、俺を扱いているのと逆の腕でしっかりと腰を抱き込まれ、もがく事すら出来なくて、結局。

「あぁ、あ、はっ、は……あ、もう、もぅ――」

 最後は強がりすら言えなくなって、原田の二重の攻めに呆気なく屈して俺は吐精した。
 散々快感に耐えようと躍起になっていた俺の疲労は随分なもので、悔しい事に原田に抱き抱えられなければ立っていることすら出来ない。それから前を向かされ抱き締められて、耳元に口を寄せられ囁かれる。

「憎いって理由で構わねぇから……少しは俺の事も見てくれよな」

 誰に対しても余裕の表情しか見せないのに、俺に対しては呼吸を乱し、自分を見てくれと告げてくるこの男が何故だか憎みきれなかった。かと言って素直にもなれない。

「俺はお前なんか見てる暇は無いんだ! そ、それから、妹に手ぇ出したりなんかしたら殺すからな!」

 きっとこいつはそんな事しないって思ったけど、他に何を言えば良いのか分からなかった。俺の言葉を聞いた原田は。

「ってことはよ、お前にだったら幾らでも手ぇ出して良いのか?」

 と、今日初めて見せる余裕の笑顔で俺に問う。

「い、妹に……手を出されるよりマシだ」
「ふぅん、なら……」

 言い終わらぬうちに与えられた口付けに、抵抗出来なかったのは疲れていたからだ。俺が原田に惹かれるなんて有り得ない。


…………と思う。


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