素直じゃない


※現パロ/大学生設定


「キスが上手かったら考えてやる」

 大学の新歓コンパの時、その中で一番可愛かった薫という子に酔った勢いで「一目惚れだ!」と告白した。その結果、挑発するようにこう言われたから、その場で押し倒して思い切りディープなキスをしてしまったのだ。向こうから言ってきたくせに激しく抵抗されて、そのうち騒ぎに気付いた周りの奴等に取り押さえられ、暴れようにも酒に酔ってろくに力が出なかった俺は、そのままそこで寝てしまったらしい。
 目を覚ました時、隣に薫が寝ていた。

「ここは……どこだ?」

 見覚えの無い部屋に、まだ酔ってんのかなー俺、と思ったけれど、それからすぐに目を覚ました薫に――怒鳴られた。

「人前で何て事してくれたんだよ! もう大学行けないじゃないか!」
「だ、だってお前がキスしろって言うから!」
「しろなんて言ってない! 上手かったら考えてやるって言っただけだ! あんな場所でするかよ普通!」
「お前こそっ、酔ってる人間に"普通"なんて求めるなよな!」
「何言ってんだ、男に告白されて本気に取る訳無いだろ! 俺は冗談で言っただけだ!」
「……………………え?」

 その時やっと薫が「俺」と言ってることに気付いた。ごくり、と生唾を飲み込んでから「おとこのこなの?」と小声で訊いたら――殴られた。
 数時間後。

「俺を女と間違えた奴はお前が初めてだ!」

 尚もぶつぶつと文句を垂れ続けている薫に、俺はまだ謝っていた。男だって分かっても可愛くて堪らない。どう見たって新入生の中で一番だ。

「男だとしても俺の気持ちは変わらねぇ、付き合ってくれ」

 だから改めて告白した……土下座しながら。
 なかなか返事が来ないので頭を上げると、困った顔をした薫と目が合った。

「駄目って言われたって、俺は諦めねぇからな」

 そう言うと、更に困った顔をされる。困った顔も可愛いなぁ、なんて鼻の下を伸ばしていたら。

「きっ、キスが上手かったら……考えてやるよ」

 と顔を赤らめながら言われた。思わず押し倒しそうになったが、また怒られたくはないから、そっと肩を掴んでゆっくり唇を重ねてみる。薫は抵抗しなかったが、目をぎゅっと瞑ってまるで怯えてるように見えた。肩を離して頭を撫でると、恐る恐るといった感じに目を開けた薫が「……ヘタクソ」と言って、俺を突き飛ばす。そうは言われてもあんな怯えられたようにされちゃ、こっちだってキスし難い。

「されるのが嫌なら、そんな誘い方すんなよ。他の奴にだったら、お前襲われてるぞ?」
「そ、それでもいいんだ! それだけ俺に対して本気ってことだろ!」
「何言ってんだ、逆だろ? 好きじゃなくても身体目当てでやる奴多いって。それを本気とか思うなよ、お前が辛いだけだぞ?」

 そう言うと、薫がこっちを向いた。その目は涙目になっている。

「俺だって分かってるよ、そんな事くらい! だけど……だけど仕方ないじゃないか! どうすれば良いか分からないんだから!」

 泣きながらそう言った薫は、やっぱり最高に可愛かった。だけど俺の知らない過去に、誰かに辛い思いをさせられた記憶があるんだろうな、というのは何となく感じてしまう。だから俺は薫を抱き締めた。

「なら、今お前を襲わねぇ俺が本気だってことも分かるよな?」

 そう告げると薫はちょっとだけ間を空けてから、何と首を横に振りやがった。可愛くない! なのにどうにも愛おしい。
 ぷっ、と噴出した俺に「何がおかしいんだよ」と薫が言うから、「お前が可愛いからだよ」と返すと「馬鹿じゃないのか……」だとさ。しかもそう言いながら、俺の背中に腕を回してくるんだ。すっぽりと俺の胸に収まる薫は、まるで子供のよう。

「小さいな、お前」
「お前がデカ過ぎるんだよ、この筋肉馬鹿!」

 悪態を吐きながらも腕を離さない薫はやっぱり可愛い。それから随分と時間を置いてから言われた。

「キスが上手くなるまで付き合ってやるよ」
「なら俺は一生下手糞なままでいなきゃいけないのか?」
「お前が上手くなるとは思えない」

 つまりそれは――素直じゃない。でもそれが可愛いなんて、きっとこいつだけだ。

「んじゃあキス以外ではお前を満足させられるよう頑張るぜ!」

 そう言ったら「最低だ」と言われたけれど、背中に回された腕に力が篭ったのを感じたのだった。


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