腕の中


※現パロ



 初めて薫の家に泊まった日。断られるかと思っていたのに、予想に反して一緒に寝る事を許してもらえた。
 俺は薫と同じベッドだと思うだけで気が昂ぶってしまって、なかなか寝付けない。そして眠りの浅い薫は、俺のちょっとした動きですぐに起きてしまう。

「悪い、薫……やっぱ別々に寝るか? 俺がいたら眠れないよな?」
「ん、いい……」
「でもお前、明日大事な用があるって……」
「俺がいいって言ってんだ、お前も早く寝る努力しろよ。喋られる方が眠れないんだよ」

 口調は厳しいけれど、もう真夜中だから囁くように怒られた。可愛いなぁと思う。愛しくて、抱き締めたくなる。
 だけど抱き締めてしまったら、俺は間違いなくそれ以上の事もしたくなってしまう。だから必死に我慢して、さっきから一度も薫には触れていない。そんな俺の努力も知らず、薫が突然俺に擦り寄って来た。

「え、薫……!?」
「お前、あったかいな」
「そ、そうか?」

 そりゃそうだ。薫にくっつかれて俺の体温が上がらない訳が無い。もしかしてわざとか?
 付き合えるようになった今も、俺は薫の事が解らないままだ。

「あったかいと眠くなるから……なんかすぐ眠れそ…………」

 そんなことを言われたら「欲情しちまうから離れてくれ」なんて言えない。どきどきしながら硬直していると、眠れないのか? と訊かれた。

「薫とくっついてんのが、、俺には刺激が強くてな」

 素直に答えると、くすりと笑われる。

「新八、お前どんだけ純情なんだよ」
「そりゃ……薫のこと、凄い好きだからよ」

 薫はまたくすりと笑った。

「折角一緒に寝てんのに、何で離れんだよ?」
「だからそれは襲いたくなっちまうからで……」
「でも離れててもお前はもぞもぞ動くし、くっ付いてても離れててもどうせ眠れないんだろ?」
「……やっぱ俺、別の部屋で寝るわ」
「何でだよ、ここで寝ろよ」
「でも薫に迷惑が……」
「俺は新八が居ても居なくても、どうせすぐ目が覚めるんだ。だから気にすんなよ」
「だけど、」
「目覚める度に、さ、……目の前に、お前が居たら…………」

 嬉しいから――俺が話そうとしているのを遮って薫が何か言ってきたのだが、眠いからなのかその声は余りに小さくて、聞き取ることが出来なかった。

「え? 何だ、薫。……薫?」

 問い掛けた時にはすぅすぅと寝息が聞こえて、もう寝てしまったのだと知る。俺は何か大事な言葉を聞き逃した気がしてならないけれど、神経質な薫がこんなにも安心しきった顔をしているのに、起こせる筈なんて無かった。
 さっきまで湧いていた欲望も成りを潜め、今はただ薫の顔を見ていられる幸せに浸る。愛しいこいつがもっと深く眠れるようにと、俺は薫を更に引き寄せ温めた。
 薫の温かさで俺も段々眠くなってくる。明日、目が覚めたら俺が世界で一番に薫を見られるんだと思うと、幸せでならない。

 願わくば、薫がこの先もずっと俺の腕の中で安心していられますように。
 薫が安心出来るのは、ずっとずっと俺の腕の中だけでありますように。

 小さな祈りを捧げた直後、どうやら俺も眠りに落ちてたらしい。気付いた時には、もう外は白んでいた。
 俺の腕には眠る前と変わらない体勢の薫。目覚める前にキスをして、愛していると囁いた。


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