知らない時間


※(最終的に)ヘタレ気味な風間×ブラック薫



「いつも俺が下で満足してると思うなよ」

 その言葉と共に、薫が俺の上へと乗ってきた。そこまでは随分と勢いが良かったのだが、乗ってからというもの何もしない。

「何をしている?」
「うるさい、黙ってろ!」

 威勢の良い返事だけを寄越して、矢張り薫が動くことは無い。まさか――。

「そこまでしておいて、やり方が分からない訳ではあるまい?」
「……う、うるさい!」

 矢張り、か。
 まぁこんな状況も悪くはない。

「俺の上に座っているだけで満足出来たか? 出来たのなら今夜はこれで止めだ」
「え……」
「どうした? 不満は解消出来たのだろう? 満足出来たのではないのか?」
「……満足、なんか…………」

 満足などしている訳が無い。薫が俺の上に「乗っている」というのは比喩ではなく、本当にただ乗っかっているだけで、俺と薫は繋がってすらいない。結局薫はこの状態に我慢など出来なかったらしく、「教えろ」と言ってくる。
 何を、と問えば恥ずかしそうな、しかし悔しそうな顔をして怒ったように言った。

「上に乗るやり方だよ!」

 俺は順番に指示を出し、薫とやっと繋がることが出来た。余り情緒のあるやり取りではなかったが、必死な薫の表情は、そんな思いすら消し去る程に愛らしかった。いつもと全く違う感覚に、薫は戸惑いつつも俺の指示を受け腰を浮かし始める。

「あ……風間、あ、、、はっ、何だ、これ……」
「どうした?」
「あ、んっ……気持ち、い……」

 嬉しいような、その言い方では普段は大して気持ち良くないと言われているような複雑な気持ちになったが、一生懸命に腰を振りながら乱れ出した薫に、結局俺は夢中になっていく。そのうちお互い声を掛けることもなく、ただ熱い息だけを吐き出して行為に集中した。だが初めてとは思えぬ程の薫の腰の動きに、少しの不安が過ぎる。
 しかしそう思った時にはもうお互い限界で、俺からの動きも加えて同時に果てた。余韻に震える薫を見ながら、幼い顔に似合わぬ色気に先程の不安がより強まってしまう。

「随分慣れていたようだが?」
「…………はぁ、気持ち良かった」
「何だ? 俺の疑問には答えられぬか?」
「はぁ? 慣れてる訳無いだろ? 全部お前が初めてなんだから」
「その割には動きが激しかったな」
「当たり前だろ? 俺は元々器用なんだ」
「そういう問題か?」
「何だよ、何が不満なんだ! 俺は今日、お前を夢中にさせようと必死だったんだからな! お前を気持ち良くさせようと、動きながらあそこを締めて、そうしながらも動いてお前のをきちんと擦れるように……」
「もうそれ以上言わなくて良い!」

 無理矢理薫の言葉を止めると、薫に皮肉じみた笑顔を向けられた。

「ふ、お前って案外純情だよな」

 その言葉を否定はしたが、「そんな所も好きなんだから、変わらないでいろよ」と言って抱き着かれてしまえば、抱き締め返すことしか出来ない。腑に落ちない気持ちも残ってはいたが、実際器用なのだろうと自分を納得させる。
 腕の中の薫の肌の滑らかさに改めて胸を高鳴らせた俺は、見えない位置で黒い笑みを浮かべている薫に気付く事は無かった。


一覧ページへ戻る




.