好きじゃない


※SSL



 俺の嫁と同じ顔をしているくせに、随分生意気な口をきく。第一印象など「最悪」の一言に尽きた。
 
 ある日、余りに煩いその口を塞いでみたら大人しくなった。ふっ、と笑えば怒ったような表情をして口を開くが、そこから言葉を出されることはなく、顔を赤くしたまま俯かれてしまう。
 もう一度その顔が見たいと顎を引けば、驚いた目の中に俺が映る。再度口付けると突き飛ばされ、走り去られた。

 次の日からは来なくなるだろうと思われたが、昨日のことなど無かったかのように、また薫は俺の側に来ては煩く何かを捲くし立てていた。よくよく聞けば、どうやら昨日の件に対して何か不服を申し立てているらしい。

「何だ、初めてだったのか?」
「はっ、初めての訳無いだろう! 俺はあんなの慣れてるんだからな!!」

 馬鹿にしたように訊いてみれば、強がりが十割を占める返事をされる。俺はその言葉を利用することにした。

「では、続きをお前に教えてもらうことにしよう」

 そう言って生徒会室に連れ込み、続きを促す。

「どうした、慣れているのならばやってみせろ」

 言っても薫は動かず悔しそうな、けれど困ったような表情を浮かべて視線を泳がせている。いつまで待ってもそのままなので、「では俺が教えてやろう」と言って、腕を掴んで近くのソファへ押し倒した。

「え……」

 何事かと俺を見上げたその視線がやけに純粋で、少しだけ後ろめたくもあったが、ここまできて止められる筈も無く――首筋に口付けるとびくりと細い身体が揺れた。

「なに、何する気だよ、風間……」
「キスの続きだが。何だ? 知らないのか?」

 慌てているようだが、どうしたら良いのかも分からないようで、いつもの煩さなど嘘のように、小さく俺に問う薫が可愛くて堪らない。
 そんな薫を馬鹿にして言った言葉には、また強がってくる。

「し、知ってるに決まってるだろ! 馬鹿にするなよ!」

 これにはさすがに笑ってしまう。堪えることなど出来なかった。
 それからゆっくりと制服を脱がせていくと「お、男同士で……?」と、怯えたように呟かれた。

「知っているのではないのか?」

 そう訊けば黙ってしまい、視線も逸らされてしまう。粗方脱がし終えた所で薫自身に触れてみる。またびくりと身体を震わせて、けれど簡単に持ち上がったそれを緩く扱くと男の反応を見せていた。
 幼い顔の割には、と吐かれた息がやけに艶めいていて、俺の熱も簡単に上がっていく。一度薫を達かせてから、すぐに後孔に触れてみた。きつく結ばれたその口を、時間を掛けてゆっくりと解す。
 途中何度か「や、やだ、風間……」と小さく訴えられたが、言葉に反して、その手は続きを求めるように俺の制服を握っていた。

「嫌であれば逃げれば良い」

 そう言うと泣きそうな顔をされ、それからも口ではいやだと言われ続けたが、結局薫は逃げようとすらせず俺を受け入れたのだ。
 それまで余裕であった俺も、薫と繋がってからはその熱さに夢中になった。普段は生意気な言葉しか紡がないその口から、甘い喘ぎだけが漏れ出る様には何とも煽られて仕方が無い。
 目をきつく瞑って、荒い息と喘ぎを繰り返していた薫が、ほんの一瞬目を開き俺を見つめて、風間……と呟いた時には、胸が高鳴った。
 直後、俺と薫の間に熱い迸り。
 更に後を追って俺を締め付ける薫の秘所に、俺は慌てて自分のものを抜いて、薫の腹へと吐き出した。薫が息を整えている間に後処理を済ませ、制服を着せてやる。すると気怠そうにしながらも、また強がってきた。

「お前が初めてだと思ったら大間違いだからな、俺は経験済みなんだ」

 つい先程、男同士で出来るのかと言った自分の言葉も忘れているらしい。呆れてしまう。……呆れてしまうほど、愛しくなた。

「では相手の男を連れて来い。お前の事は俺が貰うと告げてやる」

 一瞬訳が分からないといった顔をした薫は、遅れて言葉の意味を理解したのか、顔を真っ赤にして怒鳴り出す。

「ばっ、馬鹿じゃないのか! 一度寝た位で調子に乗るなよ! 俺は誰とでもするんだからな! お前が特別な訳じゃないんだからな!」
「では、これからは俺だけにしろ」

 またいつもの煩い薫に戻ってしまったが、俺の方は今迄の気持ちになど戻れそうにない。短く言って抱き締めると、一瞬身体を強張らせ、けれど逃げること無く俺の腕に収まった。静寂が訪れた生徒会室に、次に響いたのは薫の言葉。

「お前……俺が好きなのかよ?」
「さぁ、分からんな」
「なっ、」

 怒った薫は暴れるように俺の腕から抜け出して、「俺はお前なんか好きじゃないんだ!」と言い放つ。そして小走りでドアへと向かった。

「それから、俺の妹にちょっかい出すなよ! 俺も、妹も、お前のことなんて眼中に無いんだからな!」

 捨て台詞を吐いて、生徒会室を出て行ったのだが……。最初はぱたぱたと走る音を立てていたのに、すぐにのろのろと歩く足音に変わり、とうとうピタリとその音が止まった。
 慌てて廊下に顔を出すと、隅で蹲る薫が見える。駆け寄ってどうしたのかと問えば、「痛い……」と眉根を寄せて呟いていた。
 分かりきってはいたが、初めて男とした薫にとって負担は大きかったようで、腰が痛いと言って立とうとしなかった。腰以外も痛いのではないか? と訊いてみれば「最低だ」と言われたが、辛そうな顔をして大人しくなった薫を、結局家まで送ることにした。
 タクシーを呼ぶと「金の遣い方が馬鹿過ぎる」と言われたが、では歩いて帰るかと問えば首を横に振る。薫の家に着くまで無言で過ごしたが、玄関口まで連れて行くと何事かぶつぶつと呟き始めた。何だと訊いてみると、その呟きはぴたりと止まる。

「お前のせいでこうなったんだから、礼なんて言ってもらえると思うなよ!」

 それだけ言って、目の前で大きな音を立ててドアを閉められた。
 だが、俺には聞こえていた。小さな声で、礼を言おうと呟いていた薫の声が。


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