言えないくせに


 いま、この部屋に充満しているのは俺の声――俺の、喘ぎ声だ。

「あっ、あ、あぁぁ、んぅ……はっ、あっ」

 聞きたくないのに俺の声だけが響くから、正常に作動している俺の聴覚が機械的に俺の声を拾う。俺の腕をきつく縛り上げている布が、俺が激しく動かされる度に結ばれている先の柱を揺らし、声を抑えたところで聞こえてくるぎちぎちと鳴る音も不快でならない。

「こんな、、こと、し、て……ふ、ざけんなよ土方!」

 強く言おうと努力しても、息が切れてる俺にはそれも叶わず虚勢を張っているだけの、みっともない声になってしまう。

「何言ってやがんだ、こんなにしやがって」

 そう言って俺自身を触られてしまえば、先から零れる滴がびちゃりと音を立てる。そのぬめりを利用して扱き出されてしまえば、出る声に甘美さが混じる。

「あ……やだ、やだ止めろ、止めろよっ」

 制止の言葉を紡いでみても、無言の拒否が返されるだけ。俺を扱く手の動きが速まるのと時を同じくして土方の腰の動きも速まって、悔しい事に感じる快感が高まりを見せる。土方の動きは激しいのに、的確に俺の良い部分を突いてくるから慣れない行為の筈なのに、凄く嫌な筈なのに――まるで土方を求めるかのように、俺の腰が揺れる。
 いやだ、やめろと言うのもろくに舌が回らなくなり、口も閉じられなくなってしまって気付けば顎にまで滴が伝っていた。そんな自分が嫌になる。
 けれど土方は容赦無く俺を攻め立て、それでもまだ何とか耐えられそうだったのに、いきなり先端に爪を立てられれば叫び声が上がり俺は呆気無く果ててしまった。俺が果ててもまだ土方は相当な質量を誇り、遠慮無く俺を穿ち続ける。達した後の独特の倦怠感のせいで、少し動くだけでも辛い。それなのにまともに息も出来ない程突き上げられ、やっと土方が欲を吐き出した時にはもう俺の息は絶え絶えになっていた。

「体力ねぇな、てめぇは。それでも男かよ?」

 言われても、何も返せない。いま俺に掛けるべき言葉はそんなんじゃないだろ、とか、お前の方こそ男相手に何してんだ馬鹿じゃないのか、とか。色々言いたいのに、何も言えなくて……。一番嫌なのは、散々好き勝手したくせに事後に俺の頭を撫でる土方の手の感触が気持ち良いな、と思ってしまったことだ。
 腕の戒めを解かれ後始末をされ、動けないのに服は着せてもらえず横に無造作に投げ付けられた。

「また気が向いたら相手してやるよ」

 その上で、まるで俺の方が土方に頼み込んでしてもらったみたいな言い方をされる。それでも怒声すら上げられない程に疲弊していた俺は、立ち去る土方の足音をただ聞いているしかなかった。
 くそっ、ふざけんなよ、何で怒れなかったんだ、俺は! 悔しい……。悔しいのは、怒れない自分にだ。
 だけど俺を無理矢理抱く直前に、一瞬だけ見せた寂しそうな土方の目が忘れられなくて。何であんな目をしたのか気になって気になって――。

 馬鹿馬鹿しい。
 世の中にはもっと格好良いやつなんて山程居るのに。
 それでも、俺は明日もきっと土方を探してしまうんだろう。目の前をどんないい男が通ったって、きっと目に入らない。

「普通、男にされて感じたりなんかするかよ……気付けよ、馬鹿土方」

 会えば好きだなんて言えないくせに、こうして呟くのを止められない俺は、本当にどうしようもない。


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