背中に回す腕


※龍之介×薫



 小さな声を出して、南雲が俺の下で悶えた。
 目の端に涙が滲み、辛そうに見える。やめるかと提案すると怒ったような顔をして、「さっさと終わらせろよ下手糞」と強がってくる。辛そうに見えたのは快感を我慢していただけだ。
 俺は最近、漸くそのことに気付いた。

「下手だってんなら、俺の誘いになんか乗らなけりゃいいだろ?」
「…………っ」

 俺の言葉に、南雲は悔しそうな顔をした。そのまま少し待ってみたが、結局南雲は返事をしてくれなかった。
 止まっていても仕方が無い、否、そろそろ俺の方も限界に近い為腰を動かし始めると、好い処にでも当たったのか南雲が高い声を上げる。直ぐに口元を押さえていたが、俺は容赦なくその場所を狙って攻めた。
 俺の動きの激しさについてこられなくなった南雲は、逃げようとでもしたのか、それとも無意識だったのか――口元から手を離して布団をぎゅっと掴んだ。
 押さえを失った口からは、当然のように高い声が漏れている。声を殺そうと唇を噛んでみたようだが、俺の激しい突き上げにそれも続かず、また口を開いた。眉根を寄せて口惜しそうに目を瞑った南雲は、暫くしてその表情を快楽を享受するものへと変化させていく。

 表情が素直になるのは、南雲が達する前兆だ。それが分かっているのに、俺は更に南雲を啼かせたくなり、角度を変えてこれ以上ないくらい奥深くまで腰を進めた。驚いたのか、それとも気持ちが良かったからなのか、南雲は反射的に身体を跳ねさせ、その勢いで俺の背を蹴ってくる。同時に目を開いて言うのだ。

「あ、ごめ……っ」
「え?」
「あ……な、何でもな……」

 もう少しだったのに、予想外の南雲からの謝罪で俺の絶頂は先送りされた。

「俺を蹴ったことを謝ったのか?」
「何でも無いって言ってるだろ! は、早く……続きしろよ」
「お前って達く直前は素直になるよな? 可愛いと思うぞ」
「そんなこと無い! あとお前って言うなよな!」
「……南雲?」
「………………俺は、本当は南雲じゃない」

 この時こいつが「本当は」南雲じゃないと言ったその意味を、俺が知るのはもう少し後だったが、俺にどう呼ばれたいのかは分かった。

「薫」

 呼べば悔しそうな嬉しそうな、複雑な表情を浮かべていたが、文句を言ってはこない。もう一度名前を呼んでやると、ちらりと俺に視線を寄越す。その顔が、仕草が、余りにも可愛くて……後はもう、貪るように行為に耽った。
 達する直前に薫が「龍……」と言い掛けて、結局呼んではくれなかったがそれは次で良い。
 薫の中に俺の欲を注いで、抜かずに次を始めたら薫は驚いて俺から離れようと腕を伸ばしてくる。突っぱねるつもりだったのだろうが、一瞬早くその手首を掴んで引き寄せれば、少々の躊躇いの後、その腕は俺の背中に回されたのだ。


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