結局全部。


※学パロ/恋人設定/同学年で同クラス
千鶴と平助も恋人設定


沖田からの愛の言葉が、毎日繰り返されている。
言われる度に何て答えて良いのか分からず、うるさいだのしつこいだの言って来た。
だけど嫌だった訳じゃないんだ、沖田以外にそんなことを言ってくれる人はいなかったし……本当は、嬉しかった。

今日こそは、今日こそは素直になろう。
沖田ほどのことは言えなくても、俺もちゃんと好きだって言って、沖田に好きになってもらえて嬉しいって言おう。

そう決めて、部活が終わってから沖田と待ち合わせている教室へと向かった。
タイミングを延ばすと決意が揺らぎそうだから、教室に入ったら直ぐに言おうと決めていたのに、近付いた教室から人の話し声が聞こえてくる。

「誰か居るのか……?」

他に人がるなら、沖田に好きだと言えない。歩を進めていくと、話し声の中に沖田の声が混じっているのに気付く。
別にやましいことなんて無いのに、俺は途中から足音を忍ばせていた。そっと教室を覗いてみると、中には沖田と千鶴がいる。
千鶴は平助を待っているらしかったが、平助はまだ来ていないようだ。教室にはその2人しか居なかった。
何となく入りにくい雰囲気があって、少しの間俺はその場に留まることにした。そうすると、当然会話が聞こえてくるわけで。

「最近平助とどうなの? 仲良くやってる?」
「はい! 平助君、凄く優しいんですけどこの間なんて〜」

別にどうということの無い、千鶴ののろけのような話が続いていく。
二人が付き合うと知った時には「平助なんかに!」と思っていたけれど、千鶴の話から随分と大事にされているのを知り、嬉しいような寂しいような複雑な気分になった。
その後、幾ら妹の話とは言えいつまでも盗み聞きしているのもどうかと思い、そろそろ入るかと足を一歩踏み出した時に沖田の声が聞こえてきた。

「それにしても千鶴ちゃんて本当に可愛いよね、平助が羨ましいな」

踏み出した足はそこで止まった。
いや足だけじゃない、身体全体が動かなくなった。
直後に千鶴が「そんな事言って、沖田さんは」と言い掛けている声が聞こえたが、続きを聞く勇気はなかった。

「あれ〜薫じゃん! 何やってんの、そんな所で」

唐突に、この明るく元気な声に掻き消されてしまったから。……最悪だ。やっぱり千鶴にこいつは不釣合いだと思う。千鶴がいつか平助と結婚するなんて言い出したら絶対阻止してやるからな。
殺意を込めた目で振り返りながら、俺は返事をする。

「部活が終わって帰るとこなんだよ、お前もう少し声のボリューム下げろよ、煩いんだよ」
「えー声出さなきゃ殴られんだよ、俺の部は!」
「だったらそんな部、やめたらどうだ? 千鶴の鼓膜を破ったら殺すからな」
「俺はそこまで大声じゃないだろ! 何だよ、ひっでぇなぁもう」

ブツブツと呟く平助に気を取られていた俺は、真後ろに沖田が立っている事に全く気付かなかった。
だから改めて教室へ入ろうと前を向いた時、目の前に人がいることに呼吸を忘れるほど驚くことになる。
慌てて後ろに下がろうとしたら、体勢が崩れて倒れそうになった。その俺の腕を、沖田が掴んで引き上げる。
それは良かったのだが、勢い良く引っ張られて沖田の胸へ飛び込むことになり、そしてそのまま抱き締められたのだ。

「えっ、あ、おき、沖田……」
「部活お疲れ様。ところで、僕の薫はいつから盗み聞きしてたのかな?」

内心パニックで、何も答えられなかった。
平助のせいで盗み聞きしてたのがバレた憎らしさとか、人がいる前で俺を抱き締めるなとか、俺を私物みたいに言うなとか……言いたいことがあり過ぎて、何から言えば良いのか分からなくなる。
焦っててる所へ千鶴が来て、兄様大丈夫ですか? と声を掛けてきた。その声でやっと落ち着きを取り戻した俺は、沖田を突き飛ばす。

「ぬ、盗み聞きなんてしてない、教室に入ろうとしたらお前達が先にいただけだ!」
「ふぅん、ま、そういう事にしておいてあげてもいいけど」
「それよりっ、人前で俺のことをお前のものみたいに言うなよ! あと抱き締めるな!」
「何で?」
「何でって……」
「兄様、大丈夫ですよ。平助君と私はお二人のことを知ってますから……だから沖田さんも安心して言ったんだと思います」
「そうそう、そういうこと。ま、僕は誰の前でも気にしないけどね」

その後は少し喧嘩して(といっても俺が一方的に怒っただけだけど)、千鶴と平助の仲介で何とか表面上だけ仲直りをしてから、二人で帰路につく。
落ち着いて来ると思い出されるのは、千鶴に言った沖田の言葉……千鶴が可愛いと、平助が羨ましいと言った、あの言葉だ。
何だか胸がもやもやする。沖田はもしかして千鶴の方が好きなのか? 俺と千鶴の違いは……いっぱいあり過ぎて分からないな。
けれど一番の違いはきっと「素直さ」だと思う。そうだ、元々俺は今日素直になるつもりだったじゃないか、言うなら今だ。

「沖田、あのっ」
「何?」
「好きだ!」

俺の告白に沖田は驚いた顔をした。それから裕に二十秒は溜めてから、

「え?」

と訊いてくる。俺はちゃんと言えてなかったのか?

「だから、好きだ。俺はお前のことが好きなんだ」
「どうしたの、薫? 熱でもあるの?」
「熱なんかあるか! 何でそんなことを疑うんだ、馬鹿なのか」

とまで言ってハッとする。千鶴ならこんなこと、絶対に言わない。そうだ千鶴ならどうするか考えて、千鶴みたいに行動すればいい。そしたら沖田は、俺のことだって可愛いと思ってくれるに違いない。

「あ、馬鹿は言い過ぎだよな。えっと、そう、俺は沖田が好きで……どこが好きかって言うとその、意地悪なトコ……はあんま好きじゃないんだけど、性格の悪い所は最悪だから、きっと皆お前のことは煙たがってると思うけど、俺は気にしないし好きだからな」

よし、上手く言えた。これで沖田は俺にメロメロのはずだ! と思ったのに。

「何それ、結局僕の悪口?」
「何言ってんだ、俺は悪口なんて一つも言ってない。本当のことを言っただけだろ? 何か間違ってるか?」
「……ちょっと酷いんじゃないの? 大体どうしたの、突然」
「だから、今まではちょっと素直じゃなさ過ぎたから反省したんだ。俺もお前のこと好きだって言いたかったし、それに……」

俺以外を褒める沖田なんて見たくないし――素直になろうと思ったのに、一番素直な気持ちは言えなかった。
だけど沖田は俺の言葉尻を拾って訊いてくる。

「それに、何?」
「あ、えっとその……とにかく、お前のことが好きなんだ! それでいいだろ? 俺に好かれてちゃ不満なのかよ」
「不満なわけないでしょ、嬉しいよ薫。でも何で突然素直になろうって思ったの?」
「何でって……そんなのに理由なんか無い」
「嘘ばっかり。僕分かったよ、薫は千鶴ちゃんにヤキモチ焼いたんでしょ?」
「はっ、やきもち? 何で俺が」
「聞いてたんじゃないの? 僕が千鶴ちゃんを可愛いって言ってたところ」
「…………」

確かにそれは聞いたし、実際に今は千鶴を意識していた。ヤキモチのつもりなんて無かったけれど、千鶴を羨む気持ちが無かったと言ったら嘘になる。

「薫は早とちりだからなぁ、その後千鶴ちゃんが何て言ったか聞いてないんでしょ?」
「その後? その後は……あぁ、平助が声を掛けてきたから聞き取れなかったんだ」
「やっぱりね。はーホント、千鶴ちゃんの方が僕の気持ちよく分かってるなぁ〜」
「何で千鶴が……」

また胸にもやもやした気持ちが湧いてくる。だけど続けられた言葉に、そんな感情は吹き飛んだ。

「千鶴ちゃんは可愛いけど、薫はもっと可愛いんだ。僕は薫が一番好き」
「え……」
「千鶴ちゃんはさっきね、"そんな事言って、沖田さんは兄様の事しか目に入ってないんでしょ?"って言ってきたんだ。だから千鶴ちゃんの方が僕の気持ち分かってるって言ったの」
「沖田……」
「顔はソックリでも僕にとっては薫の方が可愛いなぁ、きっと平助にとってはそれが千鶴ちゃんなんだろうけど」

何だか凄く恥ずかしくなって、俺は下を向く。そんな俺の頭上に沖田の質問が投げられた。

「ところで薫は僕の事本当に好きなの? 何かさっき悪口しか言われなかったけど」
「え、俺は悪口のつもりなんて……」
「だって意地悪だとか性格が悪いとか……褒めてないよね?」
「あぁ、言われてみれば……でも、お前の特徴なんて他に無いだろ」
「酷い、薫……! 僕はこんなに薫を好きなのに! 薫の良い所だったら24時間だって言い続けられるのに!」
「そ、そんなに俺に良いトコなんて無いだろ! 馬鹿言うなよ!」
「あるよ!」
「ない!」
「ある!」

この後暫く平行線のやり取りが続いて、何とか黙らせようと俺は叫ぶように宣言した。

「俺は、お前の全部が好きだ!」

直後沖田が黙ったので、これは相当良い攻撃だったとほくそ笑んだのも束の間。嬉しそうに笑った沖田は、道のど真ん中で「僕も」と言って俺にキスをした。


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