君の肌に甘えた
※薫にベタ惚れ沖田
パラレル/大学生で恋人設定
「沖田ー」
呼ばれて振り向くと、顔を赤くした薫が居た。なあに、と訊ねると
「抱っこ」
と言って両手を伸ばして近付いてくる。突然の甘えに驚いた僕は、薫にぎゅっと抱き着かれるまでその場から動けなかった。
「な、何……? どうしたの?」
普段は動揺なんてしない僕が、しどろもどろに問い掛ける。眠た気な目で僕を見上げた薫は、恐ろしい程可愛かった。
同時に、そこはかとなく漂うお酒の香り。直ぐに薫が甘えてきた理由は分かったけれど、薫は今迄お酒なんて飲んだ事は無い。お酒に興味も無いようだった。という事は誰かに飲まされたんだ…………誰に?
僕の薫に勝手な事をした犯人を考える。薫は酔うと甘えるみたいだ。もしかしたらそいつにも抱き着いたかもしれない。
…………殺そう。
努めて優しい口調で「誰に飲まされたの?」と笑顔で問うと、薫は変わらず眠そうな表情のまま
「抱き締めろって言っただろ! 早くしろよ!」
と怒ってきた。あぁそう言えば、最初にそんな事を言っていたような。薫の背に両腕を回してきつく抱き締める。けれど最初に言われたのは「抱っこ」だったなと思い出し、僕は腕を緩めて直ぐに薫を抱き上げた。ふわりと浮いた自分に驚いたのか、薫は怯えたような表情になって僕の首元に縋り付いてくる。
あぁ困った。可愛さが犯罪級だ。
「抱っこして欲しかったんでしょ?」
「ん……うん」
自分の発言を思い出したらしい薫は、納得した表情になり改めて僕に抱き着いてきた。
可愛い。可愛過ぎる。
そう思えば思う程に、薫にお酒を飲ませた奴が憎らしくなってきた。
「ねぇ薫、誰と飲んでたの?」
「んーはらら」
はらら?
あぁ、はらだって言いたいのか。てことは左之さんか。左之さんには色々とお世話になっているけど、もしも薫に手を出していたならそんなことは関係無い。
「ねぇ薫、左之さんにも抱っこしてもらったの?」
うとうとし始めていた薫は、一度僕の質問を無視した。
「ねぇ薫、薫ってば! 返事してよ!」
「…………んん……」
「えっ、どっち? 左之さんにもしてもらったの?」
しつこく訊ねる僕に、薫が眉根を寄せる。眠い所を起こされて、ご機嫌が悪くなっているらしい。だけど僕だって譲れない、これは大事な事なんだから。
「薫、どうなの? ちゃんと答えるまで眠らせないからね?」
「…………ゎけ、」
「え?」
「するわけ無いだろ!」
突然顔の近くで大きな声を出されて、僕はまた驚いてしまった。その拍子に薫を落としそうになり、慌てて抱き上げ直す。
「俺の事、軽いやつだと思ってんのか! 俺は沖田以外になんて触らせないからな!」
敵と向き合った猫のようにフーフー唸る薫は、世界で一番可愛く見える。僕がこんなに夢中な事を、薫は知っているのだろうか。
「そうなんだ、ごめんね」
素直に謝ると、薫は大人しくなって「ベッドに連れてけ」と命令してきた。はいはいと言って寝室に行き、ゆっくりと寝かせると腕を引かれて僕もベッドに倒れ込む。
「お前も一緒に寝るんだ、離れんなよ!」
それから手を握られた。
襲いたくなりましたと言ったら、薫はまた怒るだろうか。