しあわせアレルギー

※SSL


早い夏が訪れたこの日、総司が俺の部屋に来ていた。
外は暑過ぎて窓なんて開けていられない。冷房をきかせた閉め切った部屋で、俺は煙草に火を点けた。

「土方さん、煙いです」

少しして総司の生意気な声が俺を咎める。

「煙、そっちに行ったのか? なら、俺より風上に移動しとけ」
「……この部屋だったら、どこに居たって煙いんですけど」

ったく、こいつは相変わらず我儘だなぁ。
そう思っている内に、総司が俺の目の前にまで迫って来ていた――何でこんな近付いてやがんだ、こいつは。

「土方さん、」

俺の名を呼ぶ軽やかな声に気を取られ、煙草を持つ手に総司の指が絡められている事になんて気付けなかった。

「何だよ?」

問い返した時にぎゅうと総司の指が俺の手を握り、煙草の先がじじっと音を立てた。

「おい、何してやがる。手ぇ離せよ」
「だって土方さん、煙草から離れてくれないじゃないですか」
「当たり前だろ、まだ吸ってんだからよ」
「でも、今は僕と居るんですから、僕に集中して下さいよ」

こいつの真剣な眼差しが、俺を好きだと言っている。俺が欲しいのだと言っている。
あぁもう、お前はいつからそんなに俺の事好きになったんだよ。あんなに俺の事嫌ってたくせに。

「……火、消してやるから手ぇ離せって」
「本当ですか?」
「本当だ、だから早くどけよ」
「分かりました」

そう言って嬉しそうに笑うこいつは、悔しいけれどとても可愛い。可愛くて、ともすれば庇護欲を掻き立てる程なのに、気付けばいつだって翻弄されているのは俺の方だ。
灰皿に煙草を押し付けた俺の手はまた総司に拘束されて、抗議しようと顔を向けた先には既に総司が迫っていた。

総司の「そ」の字も言えないまま塞がれた唇は煙草よりも中毒になりそうで、誰にも言えないけれど、実は俺はそれが酷く――
怖い。


2016.05.31

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