おそろいの跡

「見える場所に跡をつけるのは、やめてくださいと言ったじゃないですか」

今日も首筋に口づけの印をつけると、伊庭君が怒って言った。

「どうして? 君は私のものだろう?」
「人に見られたら……困るじゃないですか」
「私に付けられたのだと、素直に言えば良い」
「そんなこと、言えるわけが無いでしょう」

伊庭君は相変わらず怒った表情のまま、私の肩を押して無理矢理私から離れてしまった。
彼には言えない、怒る姿がそそるのだと。
伊庭君を恋しく思う気持ちと同時に、全てを持っている彼を憎いとも思っている。どちらも嘘のない感情で、どちらも満足させられるのが、怒らせることなのだ。
そう言ったらきっとまた怒るだろうし、その姿も堪らないとは思うけれど、本気で怒らせて会えなくなっては意味がない。
何より、私の下で乱れる彼の姿はこれ以上無いほどに興奮する。手放すわけにはいかない。

服を着始めた伊庭君はむすっとした顔のままで、そのくせ美貌は保たれている。
ただの口づけなら許してくれるだろうか。
帯を締め終えた伊庭君に近づいて、顔にそっと手を添えた。
伊庭君が私を見る。その顔に、もう怒りの感情は残っていない。それどころか、彼は綺麗に微笑んだ。
このまま口付けて、また次の約束をーーそんなことを考えて顔を近づけた私の襟元を、伊庭君がぐいっと強い力で引っ張った。
体勢が崩れた私の首筋に、伊庭君が噛み付く。

「痛っ!」

衝撃に驚いて、思わず口走った私の言葉に、伊庭君が満足げに笑った。

「武田さんの首にも、跡がつきましたね」
「これは歯型ではないのかい?」
「違いますよ、あとで鏡を見てください。ただの口づけの印ですから」
「随分と痛かったのだけど」
「僕のお願いを聞いてくれないお返しですよ」
「ひどいな」
「でも、これでお揃いですね」

そう言って笑った伊庭君は、いつもよりも子供じみて可愛く見えた。



2018.01.15

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