君の恋はわかりにくい

僕より少し前を歩く三木君が、白い息と共に小さな声で「寒いな」と吐き出した。
「そうですね」と答えながら、僕の方を振り向こうとしない三木君の横顔を、後ろから見る。この寒さでは耳が赤くなっているのではないかと思ったけれど、髪に隠れてそれは見えなかった。

寒いと言いながらも、俯きもせず吹きつける風すらも気にせず、真っ直ぐ前を見つめて歩く三木君のその姿に、心が強く惹きつけられる。
つい先日「好きです」と伝えたことへの返事はまだないけれど、こうして一緒に歩くことを嫌がられていないのは、少しは期待しても良いということだろうか。

視線を下げていくと、三木君の手が見える。
その指先は真っ白だ。冷え切っているのだろう。

僕は思わず三木君のその手を取った。
突然のことに、さすがにこちらを向いた三木君が呆れた顔で僕を見る。

「何してんだ?」
「三木君に、僕の体温を分けようかと思いまして」

そう言って、三木君の手を自分の両手でぎゅっと握った。
僕は元々体温が高い方だから、いまだって指先まで温かいはずだ。いや、間違いなく温かい。だって握りしめた三木君の手を、氷のように冷たいと感じるのだから。

三木君が、僕を馬鹿にしたような短い笑いを漏らした。
その直後に、僕の片手を奪うように握って引っ張る。え、これではまるで……。

「馬鹿かてめぇは。繋げばいいだろうが」

勘違いではなかったらしい。まるで手を繋いでいるようだと思ったけれど、それで合っていたようだ。

「僕と、手を繋いで歩いてくれるんですか?」
「お前の体温を奪ってるだけだ」

三木君は、僕が喜ぶことを簡単にして、ぶっきらぼうな言い方の中に平気で優しさを隠すのだ。
困った人だな、と思う。

「三木君は、僕の心も奪っているんですよ」

この言葉に、三木君はうんざりした顔をする。

「お前の告白は、何かだせぇんだよ」
「そうですか? もっと直球の方がお好みなら、言い直しますけれど」
「別にいらねぇ」


ーーその日の別れ際、三木君に怒られた。

「もう好きだって言ってくんな」
「え、どうしてですか? ご迷惑だったなら……」
「そうじゃねぇよ」

それから顔を近づけて、意地悪そうに笑って言う。

「次は俺が言う番だろ」



2018.01.06
title/エナメル様

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