思考で口付け

「私は三木君のことが好きなのかもしれない」
「はぁ?」

 武田が真面目な顔で狂ったことを言い出した。斬ってやろと腰の刀に手を回してから、屯所内だから刀を差してなかったことを思い出す。

「何言ってんだてめぇは。頭おかしいんじゃねぇの?」
「そうかもしれない」

 いや、認めんのかよ。否定しろよ。おかしな頭で俺を好きになっただなんて、失礼にも程があんだろ。

「でも私をおかしくさせたのは三木君なのだから、責任を取ってもらえないだろうか」
「責任? 何しろっつーんだよ?」
「口づけを……してほしい」
「嫌に決まってんだろ、気色悪いな」

 俺の拒絶に、武田がわけの分からないことを言いながら怒り始める。武田の中ではそれは筋が通ったことなのかもしれないが、俺からすれば支離滅裂だ。何なんだよこいつはほんと……
 余りにうるさい武田に、苛立ちが限界に到達した俺は叫んでいた。

「あーーうるせぇな、分かったよ、一回だけしてやるよ! それでいいんだろ? してやるから、もう二度とぐだぐだ言ってくんじゃねぇぞ!」

 そう言った瞬間、武田がそれはそれは嬉しそうに顔を綻ばせた。
 その笑顔のまま俺の両腕をがっしりと掴む。こいつすげぇ力強いな、逃げらんねぇ。いや、自分から言い出したことだし、元々逃げるつもりはねぇんだけど。

 幸せそうな面で俺に顔を近付けた武田の髪が、近づいてくるその勢いに任せて揺れ、俺の首筋を掠めた。
 くすぐったさに目を細めた瞬間、武田からの口づけを受ける。
 あぁ違うのに。別にこいつの口づけ待ちして目を細めたわけじゃ無いのに。口を塞がれているから、その説明すら出来やしない。

 ……武田からの口づけは、思ったよりも悪くなかった。
 意外なほど気持ち悪さもなく、それどころか俺に向けてくる武田の幸せそうな笑顔を、可愛いと思ってしまった。



2018.02.22
title/Lump様

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