風間ルート

肌寒さを感じて、目を覚ました。開いた目に入ってきたのは全く見覚えの無い天井で、俺は徐々に覚醒していく。

「ここは……?」

頭を巡らせても、見覚えの無い物ばかりが並んでいる。見知らぬ広い部屋に、俺は一人で寝かされていた。ゆっくりと起き上がって更に部屋を見回す。

「どこだ、ここは……」

答える者のいない空間に問い掛けてみるも、戻ってくるのは冷えた空気のみ。この部屋はやけに寒く、俺は少し震えてしまう。俺は何故こんな場所に……
そして思い出す。
そうだ、昨夜俺は―――しかしこの部屋は昨日の場所ではない。そう言えば最後に人影を見た気がするが、あれは誰だったか…
その時、静かに襖が開いた。

「ようやく目覚めたか、人間とはよく寝るものだな」

人を小馬鹿にしたその口調も、人を見下したようなその視線にも俺は見覚えがあった。

「風間……」
「感謝しろ人間、俺がお前を助けてやった。いや、助けてやったと言うのが正解かは分からんな、随分楽しんでいたようだから」

くつくつと思い出し笑いをする風間に俺は憤りを感じ、勢いよく立ち上がる。
そのまま風間に向かおうとしたが、突然世界が大きく揺れ、気付けば目の前には畳が広がっていた。
何が起きた……?
すぐには現状の理解が出来ずぼんやりと畳を見つめ、畳に付いている俺の手を見て漸く、どうやらきちんと立てずに床にくず折れたようだと気付いた。

「ふん、身体が言う事を聞かんか。無理もない」

そう言って風間の方から俺に近付いて来る。

「新選組などという脆弱な集団にいるからこんな事になるのだ」
「新選組は弱くなどない……!」
「では弱いのはお前だけか?」

相変わらず風間は馬鹿にしたように問いかけてくる。否定をしたいのだが、昨夜の失態を思うと何も言えない。
黙っている俺に向かって風間が言葉を続けた。

「貴様の弱さは犬猫と大差無い。あぁ新選組とは幕府の犬だったか、犬の集まりという訳だな」

嘲笑しながら眼前に迫ってきた風間に向かって、俺は自分の信念を言い放つ。

「幕府の犬と呼ばれようと構わん、新選組に居る事は自分の意思だ」

しかしそれすら風間に馬鹿にされ、笑われる。

「その結果がこれか? 無様なものだな」

笑いながら更に風間が俺に近付いたかと思うと、突然俺をうつ伏せにして布団へと押し付けてきた。
同時に素早く俺の腰を抱え上げ、着物の裾を捲り上げてくる。俺は風間に下半身を晒した状態となっていた。
首だけで振り返り、何をするつもりだと厳しい口調で問い詰めると、相変わらず人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべて風間が答える。

「犬で構わんのだろう? 似合いの格好だ」

そして突如、風間が俺の窄みに指を入れた。

「っ!」

俺はその刺激と違和感に、一瞬言葉を失う。
だがすぐに気を持ち直し、その指を抜く抵抗をしたのだが、風間にあっさりと腰を押さえ込まれてしまった。

「何をしている、指を抜け」
「暴れるな、中のものを出してやる」

風間の言葉の意味を理解する前に、俺の窄みからどろりと不快な液体が流れ出て太腿に伝わる。

「昨夜の男共のものだ。身体は拭いてやったが、ここはまだ掃除しておらんのでな」

上げた顔を布団に埋め直し、俺は屈辱に黙るしかなくなる。

「安心しろ、全部出してやる」

小馬鹿にした口調は変わらない筈なのに、言葉の中にどこか優しさを感じたのは、俺の気持ちが弱っている所為だろうか…
それからしばしの間、風間が俺の中を掻き出す作業に耐えていた。グチュリグチュリと、いやらしい音だけが静かな部屋に響き渡る。
それ程大きな音ではない筈なのに、やけに耳につく。それが俺の羞恥心を高める事に、布団を強く握って耐えていた。
だらだらと止め処無く流れてくる昨夜の汚れに、俺は泣きたいような気持ちになってくる。

それなのに、風間が動かす指に時折身体が反応してしまう。俺はまた風間に馬鹿にされるだろうと覚悟をするが、反して風間は何も言わなかった。
気付いていないのだろうか? いや、そんな筈は無い。では何故馬鹿にしてこない……?
しかし俺からは何も言えず、黙って終わるのを待っていると、

「指を増やすぞ」

風間がそう言い、俺の中に入れる指を増やして中を押し拡げながら掻き出してきた。その刺激と、掻き出す際に触れられた箇所に俺は反応してしまう。

「うっ……」

かろうじて喘ぐような声こそ出さなかったが、反応してしまった事には気付かれただろう。
声を上げた事だけでなく……俺自身が反応してしまっているのも風間には見えている筈だ。
隠したくともこの体勢では隠しようが無く、羞恥心に打ちひしがれ小刻みに震える俺に風間が静かに告げた。

「終わりだ」
「……すまない」

恥ずかしさの余り赤くなった顔を見られたくなくて、布団に顔を埋めたまま礼のつもりで謝罪を述べた。

「助けてやって、掃除までしてやったというのに、貴様は礼もまともに言えんのか」

けれど風間にこう言われ、結局顔を上げざるを得なくなった。そろそろと風間の方へと頭を向けるが、風間を直視する事が出来ず目線を下にしたまま礼を述べる。

「助かった、感謝する…」
「ふん、構わん。後は自分でやれ」

そう言って風間は布を俺の元に投げ付け、入ってきた時と同様に静かに部屋を出て行った。
残された俺は、渡された布で流れ出た汚れを拭く。その際、欲の臭いが鼻に付いて気分が悪くなった。同時に風間に触られて反応している自分も無視する事が出来ず、自分に対する嫌悪感が強まる。

自分の身体を見ながら静かな部屋に一人きりでいると、昨日起きた出来事を思い出してしまい、また泣きたいような気持ちになってくる。
俺はいつからこんなに弱くなってしまったのか…身体を拭き終わった頃、また風間が入ってきた。

「綺麗にしてやる」

それだけ言うと、いきなり俺を抱え上げ部屋を出た。

「降ろせ、自分で歩ける」
「先程歩けないと分かったのではなかったか? 人間とは忘れっぽいものだな」

歩けないのは覚えている。ただ、この状態に耐えられないのだ。男の俺が男に抱えられているなど…
しかし歩けないのも事実であり、結局俺は黙るしかない。この鬼が相手だと、俺は上手く喋れない。

長い廊下が終わった所で風間の入った部屋は、温かい湯気に包まれていた。そこでやっと俺は降ろされる。

「全部脱げ」
「何を……」
「風呂に着物を着たまま入るつもりか? 人間とはそういうものなのか?」
「……」

また、俺は黙る。黙って素直に脱ごうとするが、風間が一向に動かない。

「何故そこに居る、風呂くらい一人で入れる」
「風呂の中で倒れられてはたまらん、俺が洗ってやる」

驚きの余り、俺は言葉も動きも止まってしまった。固まる俺に風間が手を掛け着物を脱がそうとしてくるので、その手を弾いた。

「離せ、一人で脱げる…それから貴様に洗ってもらう必要など無い」
「歩けもせんのに、口だけは達者だな」

風間は俺の主張などどこ吹く風と、取り合ってはくれない。弾かれた手で懲りもせずまた俺の着物へと伸ばし、間髪入れずに脱がせて来た。
どちらにせよ脱ぐものだとしても、自分で脱ぐのと他人に脱がされるのとでは気持ちが違う。
屈辱感で、脱がされた着物を再度着ようとしたが、

「馬鹿か貴様は……大人しく入れ」

風間が溜息を吐きながら、裸の俺を抱え上げた。抵抗する間もなくそのまま風呂へと連れて行かれ、一つしかない椅子に腰掛けさせられた。
しかし風間は自分の着物を脱いでいない。俺は嫌味のつもりで口を開く。

「貴様こそ風呂に入るのに脱がないのか、鬼とはそういうものか?」
「俺は入らん、貴様を入れてやると言っただけだ。それに人間風情が俺の身体を拝むなど、おこがましいにも程がある」

けれど風間はその嫌味を受け流す。どころか結局俺を、いや人間を馬鹿にして笑い、俺の身体に手を掛けてくる。

「一人で洗えると言っているだろう」

風間の言動に苛立った俺は、その手をまた弾き勢い良く反論する。するとその勢いで体勢が崩れ、風間の方へと倒れ込んでしまった。
そんな俺を抱き止めた風間が、挑発とも取れる言葉を紡ぐ。

「何だ、俺の身体が見たいのか? ならば俺をその気にさせてみせろ」
「見たくなどない!」

思わず荒げた声も、風間には強がりに聞こえたのか楽しそうに笑い出す。

「良い、兎に角洗ってやる」

どう足掻いても居なくならない風間に俺は大人しく身体を委ねていたが、風間は明らかに俺を洗う以外の意図を持って俺に触れてきていた。

「くっ…」

風間は俺の感じる場所を知っているのか、際どい場所を泡と手で優しく念入りに弄ってくる。くすぐったさと気持ち良さで、声が出そうになるのを必死に我慢する。
その為呼吸もままならず、俺の身体は小刻みに震えてしまう。気付いた風間が、嬉しそうに俺の顔を覗き込み声を掛けてきた。

「その痩せ我慢がどこまでもつのか、試してやろう」

―――どれ程経ったか分からない。いや数分の事だったのかもしれない、けれど随分長い事身体を洗われている気がする。
風間は敢えて俺の中心には触れてこない。それなのに、全身を這う快感で俺の中心は熱を持ってしまっていた。
早くこの状況から抜け出したいが、どうしたらいいのか分からなくて俺はただひたすら声を殺して耐えていた。
終わりは突然だった。

「ふん、人間にしてはよく出来た方だな」

風間はこの一言と共に俺から手を離す。やっと終わったのか…俺は風間に触れられる事から解放されたのだと思った。
しかし

「気に入ったぞ、人間。褒美をくれてやる」

言うやいなや、風間がさっきまでは一切触れなかった俺の中心を握る。けれどその握り方は酷く優しくて、そのまま俺を上下に扱き出すが、泡の付いた手が全く未知の快感を呼び起こす。

「ぅあっ」

風間が離れるものだとばかり思って安心していた俺は、うっかり声を上げてしまった。
慌てて自分の手を口元に持っていき声を抑える。風間はそんな事には頓着せず、俺を一気に高みへと導いた。
俺は果て、快感の余韻からまともに椅子に座っている事が出来ず、風間に寄り掛かってしまう。風間は自分の着物が濡れるのも厭わず、俺を受け止めた。

「いい顔をする…だが、俺の着物を脱がす程ではないな」

それから俺の上半身を湯槽にもたれかけさせる。気付けば四つん這いのような格好になっていたが、湯槽から立ち上る湯気の熱と、つい今しがた達した余韻で俺の意識はぼんやりとしていた。
けれど俺の窄みに風間が指を滑り込ませてきた為、一気に覚醒する。

「何をする…」

慌てて振り返ると、

「褒美と言った筈だ」

そう言って風間は俺の中に入れた指を器用に動かし始めた。細い指は滑らかに入り込み、気付けば既に数本挿入されていた。

「あっ、止め、、、あっ…」

抜いて欲しいのに、快感に震えて上手く言う事が出来ない。風間は黙って指の速度を速め、そろそろいいなと呟いたかと思うと指を抜き、一気に自身を入れて来た。

風間の群を抜いた質量の物が、滑らかに最奥まで侵入してくる。圧迫感だけではなく、快感も伴ったその感覚に俺の抵抗する意思は弱まっていた。
風間は数回、確認するように動いてから急速に動きを速めた。

「あぁぁ、駄目だ、駄目っ、、やめ……あぁ」

激しい挿入と抜出に、自分が自分ではない何かになってしまいそうな恐怖すら感じる。それ程に快感が強く、俺は湯槽の端に強く掴まった。そうしなければ意識が飛びそうで怖かったのだ。

俺は最高に極まり、失いそうになる意識を何とか保つ為、口を固く閉じて息を詰めた。俺の声が止むと風間の息遣いが聞こえてくる。上がる息の合間に、微かに漏れ聞こえる声が風間の限界を知らせていた。
これまでに無い速度で動いたかと思うと、一気に風間自身は抜かれ俺の背中に熱が放たれ、同時に俺も達していた。
荒い息をつきながらも風間は湯を汲み、俺の背を流す。

「はっ、ぁ……」

全身が敏感になっていた俺は、湯の刺激にすら感じてしまい、思わず声が上がる。
背中を流した風間は後ろから俺を抱き起こし、また洗わないといかんなと言って再びその手で俺の身体を洗い出した。
先程まで風間が入っていた俺の窄みは念入りに洗われ、また変な気持ちになってしまう。力無い声で止めるよう抵抗してみると、俺の頼みなど聞かないと思われた風間は何故か素直に手を離した。
最後に俺の全身に湯を掛けると、俺を抱き上げる。
何をされるのかと構えたが、風間は脱衣所へ俺を降ろして素早く全身を拭いてきただけであった。

「今湯に浸けたら、お前はのぼせてしまいそうだからな」

そう言って寝巻き用の衣を俺に着せる。それから自分の着物が濡れているのに気付いた風間も、俺の目の前で着替えを始めた。平然と俺の前に肌を晒した風間に驚く。

「人間には見せないのではなかったか?」
「特別に許してやる」

意地の悪そうな笑みを浮かべた風間は、着替え終わると俺の袷も閉じずにまた俺を抱き上げた。熱さに中(あ)てられ、既にのぼせ気味の俺は黙って風間のされる事に従う。

連れてこられたのは、最初の寝所であった。目覚めた時に寒いと感じた空気が、今は心地良い。

「湯には後で改めて入れてやる」

俺はゆっくりと布団に寝かされ、寝るよう促されるがそんな訳にはいかない。

「無理だ、俺は新選組に戻って報告しなければならない事がある」
「何を報告するつもりだ」
「組内に間者が居たと、副長に報告せねば」
「無駄な事よ、昨日あの場に居た者共は既に全員殺している」
「何だと…どういう事だ」
「昨日お前を弄んでいた男共は薩摩の名を語る不届き者故、俺が消しに行ったまでだ。まさかそこにお前が居るとは思わなかったが」
「……一人、新選組の者が居た筈だが」
「そんな事は俺の知った事ではない、あの場に居た者は全員殺した。間者が居たとて、既に物言わぬ者の事など気にする事はあるまい」
「……」

突然聞かされた事実に、俺は困惑した。
全員殺した? あの人数を?
いや、鬼であるこいつなら簡単なことなのだろう。

「どいつもこいつも弱かったぞ? 何の手応えも無かった。そんな奴等に捕まる貴様の力量も知れたものだ」

その事に関して、俺は何も言えない。しかし気になる事がある。

「何故、俺を殺さなかった…?」
「生かしておいても問題が無い程弱いからだ、他に何がある? 殺す価値も無い」

熱に中てられぼんやりしていた頭が、怒りで一気に冴えてくる。直ぐに起き上がり、屯所へ戻ると言い放ったが、

「歩けもせんくせにどうやって戻るつもりだ、一度寝ろ」

そう言って布団に押し付けられてしまった。それでもしつこく起き上がろうとすれば、風間が俺に覆い被さって来た。

「これ以上面倒を掛けるな」

口調とは裏腹に、優しく甘い口付けをしてくる。

「んっ…」

その口付けに苦みを感じ、何か入れられたと思った時には既に飲み込んでいた。こくりと俺の喉が鳴ったのを確認してから、風間が口を離す。

「薬だ、寝ろ」

その声を最後に、俺の意識は遠のいていく……


目が覚めた時、既に陽は傾いていた。
部屋の寒さは相変わらずで、また少し震えて起き上がった俺に起きたかと問いかけてくる声がある。部屋の端に、風間が静かに座っていた。

「俺に何を飲ませた」
「傷に効く薬だ、人間には効き過ぎるかもしれんが」

こいつのやる事が分からない。薩摩に加担するのなら、俺を殺していてもおかしくないのに。それ以前に、何故こいつは薩摩にいるのか。

「人間を見下しているくせに、何故薩摩に手を貸している?」
「薩摩には恩義があるのでな。俺は鬼として恩に報いているだけだ。不服ではあるが、それでも裏切りの横行する愚かな人間共と同じにされては困る」
「では、何故俺を殺さない!」
「何度言わせる…貴様が弱いからだ」

風間は呆れた顔でそれだけ言うと、俺に近付いてくる。

「それより折角焚いたのだ、風呂に入って行け」
「そんな時間は無い、俺は屯所に戻る」

ここで随分時間を費やしてしまっていると思うと気持ちが急いた。早く新選組の元へ戻らなければ……最後に飲まされた薬のお陰だろうか、俺は簡単に立ち上がる事が出来た。
しかし歩くのはまだ難しく、よろめきながら歩き出したものの、そんな俺の前に風間が立ち塞がる。

「では、入りたくさせてやろう」

どういう事だ……考える間も無く俺は風間に抱き締められていた。顎に手を掛けられ、すぐに口付けられる。
口を離させようと抵抗するも、風間が俺の腰に回した手の力を強め簡単に離れられない。

行動は強引なのに、風間の口付けは酷く優しい。
そしてやけに甘く、そろりと舌を差し入れられても抵抗するのを躊躇ってしまう。大人しくしている俺の口内は、優しく、けれど執拗に舐め上げられる。その仕草はまるで―――
そう、まるで愛されているような、そんな錯覚に陥る。

そこで突然我に返り、風間を強く突き飛ばそうとした。しかし俺を抱き締める腕の力が強く、唇は離せたが身体を離す事が出来ない。

「何を、している…」

受け入れておいて何だが、俺は至近距離で風間を睨み付けた。風間はそんな俺を見て少し目を細め、答えの代わりにまた甘い口付けを寄越した。
余りの甘さに、俺は折角立ち上がれたというのに腰が抜け、膝が折れた。そんな俺を強く抱き止めながら風間が言う。

「先程の薬が効いてきたな」
「何か入れたのか」
「さぁな」
「卑怯な……」

そのまま俺は押し倒される。

「何をする気だ」
「風呂に入りたくさせてやると言った筈だ、貴様はどこまで忘れっぽいのだ……」

言いながら風間は俺の衣を脱がしにかかる。元々帯も結ばず羽織っていただけの為、すぐに身体を晒す事になった。
風間は無言で俺の身体に舌を這わせる。

「……っ」

その刺激と、舌の甘い感触に俺は背筋に悪寒が走る。いや悪寒などではない、これは快感…

「止め……」

風間を押し戻そうとするが、力が入らなかった。抵抗出来ない俺の中心まで風間が下りていったかと思うと、即座に熱い口内に俺自身を含まれた。

「はっ……」

既に敏感になっていた俺はその刺激に震えが走る。柔らかく熱い風間の口が器用に俺の快感を強める。

「離れ、ろ……」

こんな奴に何度も達かされてなるものかと思うのに、風間は俺から一向に離れなくて、上手く抵抗が出来ない。瞬く間に募った快感に、もう駄目だと思ったその時、風間が強く俺を吸い上げてから口を離した。
腹の上に俺の欲が吐き出され、それを風間は嬉しそうに見つめて話し掛けてくる。

「汚れてしまったな、風呂に入るしかあるまい」
「拭けばいいだけの話だ、風呂には入らん」

俺は風間の思い通りになるまいと突っ撥ねてみたのだが、これが逆効果であった。

「この程度では足りなかったか」

言うと風間は俺の出した液を指に取り、それを俺の中に入れてきた。俺は何をされるのか理解し、慌てて承諾する。

「止めろ、風呂には入る」
「遠慮するな、一汗かくのも悪くない」

時既に遅く、着物を持ち上げるそこが、風間がその気になっている事を物語っていた。それだけではない、鬼の動かす指に俺はどうしても反応してしまう。

「やめっ……」

言ってはみるものの、言葉だけの抵抗など何の意味も持たず、風間は指を増やす。押し戻そうにも力が入らず、風間を受け入れる体勢が整うばかりだ。
抵抗とも呼べない抵抗を繰り返すのに疲れた俺は、風間の顔にふと視線を向けた。風呂場では後ろ向きにされていたので見る事の無かったその顔は、口元を嫌味な形に歪ませているのはいつも通りなのに、いつもは見せない熱っぽい目をしていた。

その理由を知るのが怖くて俺は快感へと意識を向けるが、向けたが最後、折角抑えていた声が漏れてしまう。俺の声を聞いた風間が、指の動きを速めた。
先程達した快感の余韻も手伝い、指だけでは物足りなくなり思わず強請るような言葉を口走ってしまった。
直ぐに指は風間自身と入れ替わり、俺は高い声を上げる羽目になる。

着物のままの風間の律動は最初から激しく、その勢いで俺は布団からはみ出そうになり、思わず風間の着物を掴んだ。
その感触は俺の中で俺を攻め立てる風間の熱さとは裏腹に冷えきっていて、それはつまり俺の寝ている間も風間がこの部屋に居た事を示している…そこに思い至った瞬間、えも言われぬ感情が沸き起こった。

必要以上に感じてしまい、上がる声が止められず……気付いた時、俺はまた風間に抱えられて廊下を渡っていた。
風間の攻めに意識を失ったのかと思うと、俺はまた恥ずかしくなった。
目覚めた俺に「よく寝るな」と風間が声を掛け、揶揄うような口調で続けた。

「そんなに悦かったか?」
「あんたが薬に、何か入れていたからであろう」

恥ずかしさを紛らわせる為に、強く言ってみるが

「あれは傷の薬だと言った筈だ」
「さっき薬が効いてきたと言ったではないか」
「貴様の首筋にあった傷が塞がっていたから言ったまでだ、何を勘違いしている?」
「何だと…」

では、俺の腰が抜けたのは……

「俺の口付けで力が抜けたのが、そんなに恥ずかしいか?」

意地の悪そうな笑みを向けられ、俺は自分の顔が熱くなっていくのを感じた。いや、鬼の言う事など信じられない、薬には何か入れられていた筈だ。
そう信じたかったのだが

「人間には効き過ぎて眠くなる事はあるが、媚薬めいた物など入れてはおらん」

俺の考えを見越したように風間の告げてきた内容に恥ずかしさが募り、結局風呂場に着くまで黙るしかなかった。
脱衣所に着くと、風間は俺を降ろし自分の着物を脱ぎ出す。

「おい、まさか一緒に入る気では……」
「当然だ、一人で入れるのか? また洗ってやるから大人しくしていろ」
「いらぬ世話だ」

俺は一人になりたかった。これ以上風間に翻弄されたくなどなかった。しかし一人になりたいと思ってはみても、結局の所まだ俺は自分で歩く事が出来ず風間に降ろされた場所から動けなかった。
脱ぎ終えた風間は当然のようにまた俺を抱え上げ、風呂場へと連れて行く。

「お前は余り触れると湯に浸かれなくなるからな…」

そう呟くと、先刻とは打って変わって俺の身体を洗い出すが、そこには何の厭らしさも無く俺は瞬く間に身綺麗にされた。
風間も素早く自分を洗い流すと、また俺を抱き上げ浴槽へと向かう。

抱かれたまま湯に入れられる。恐らく熱いであろうその温度も、風間に開かれ熱くなった俺の身体には心地良く、思わずうとうとと眠りそうになった。
そんな俺に気付いた風間が、呆れた口調で起こしてくる。

「まだ寝足りんのか…」

そしてまた口付けられた。
湯も、口付けも、風間に与えられる全てが心地良く、入れられた舌に初めて応えてみると、風間が動揺したのを感じた。
直ぐ様風間は俺から顔を離し、不思議そうに俺を見つめると

「どうした、湯が気に入ったか?」

と微笑んだ。その顔はこれまで見てきた意地の悪いものとは違っていて、まるで嬉しそうに見えたから、俺は何と言えばいいのか分からなくなってしまった。

「それとも物足りないのか? あぁ、寝所では普通の格好でしてしまったからな、犬の格好の方が良かったか?」

黙った俺の体勢を、風間が湯の中で変えようとする。

「止めろ…」

これ以上何かされたら俺の身体は持たない。焦りながらも気怠るさから弱々しい抵抗しか出来なかったが、風間は小さく笑って頷いた。

「分かっている、風呂の中まで汚されては適わんからな」

そう言って風間は今度は楽しそうに笑い、俺を改めて抱きかかえた。
また何かされるのではと警戒していたが、どうやらそれ以上何もする気が無いようで、風間は静かに湯に浸かっている。俺は俺で何をすれば良いやら分からず、大人しく風間の腕の中に居るだけだ。
頭では新選組に戻らなければと思うのに、言い出す機会が見出せない。


―――どれ位経った頃だろうか。

「そろそろ出るか」

風間の一言で、湯浴みの時間は幕を閉じる。抱えられ脱衣所に着くと、昨日俺が着ていた着物と隊服を渡された。
渡された服は真新と言える程綺麗になっており、まるで昨夜の出来事など夢だったのではないかと思わせた。
風間が、何故こんな事をするのか分からない。

俺の着替えが終わると既に身支度を整え終えていた風間が俺に近寄り、当たり前のように口付けてくる。幾度目かの甘い口付けに、俺は抵抗する気が失せてしまった。
するとまた何かを飲まされる。離れた風間に何だと問うと

「屯所にまで俺に運ばせる気か? それで歩けるだろう」

と言われた。
実際、風間に運ばれなければ歩けなかった俺が、もう自分の足でしっかりと歩けるようになっていた。
そんな物があるのなら、何故風呂の前に飲ませなかったのか。そうは思うのに、返事が怖くて俺は訊けなかった。


風間に連れられ、屋敷を出た。
鬱蒼とした山奥にあるその屋敷はおよそ人が住むには不釣合いで、こいつが鬼である事を改めて感じる。

既に日は落ち、月が出ていた。
風間は無言で俺の先を行く。
風も無い山の静寂はむしろ耳に痛くて、俺は沈黙を破ろうと声を掛けた。

「あんたの目的は何だ……何をしようとしている」
「俺は鬼の世界を作る為に女鬼を探している。女鬼は貴重でな、なかなか見つからん」
「そのまま見つからなければどうするのだ、人間を相手にするつもりか?」
「人間など話にならん」
「だが女鬼とやらが見つかるとは限らないだろう」
「その時は……人間相手で我慢するかもしれんな」
「っ、人間を何だと思っている、貴様には情というものが無いのか」
「鬼の俺に愚問だな」
「では女鬼であれば優しく出来るという事か?」
「俺は子孫さえ残せれば構わん、優しくする必要などあるまい」
「……」

風間の非情さに苛立つのに、何故か俺は先程風間がふと見せた人間的な笑顔を思い出していた。俺が苛立っているのは、本当にこいつの非情さにだろうか。
風間という男が分からない。優しさを見せたかと思うと、平気で冷たい事を言う。俺はそれに苛立っているのではないか?

いや、何故苛立つ必要がある。これでは風間の事を知りたがっているみたいではないか…自分の気持ちを考えていると、不意に風間が小さな声で呟く声が聞こえた。

「惚れてしまったなら、俺はそいつを殺す事など出来んだろうがな」

もしも今、風が吹いたなら、木が揺れたなら、恐らく聞こえなかったであろうその声が、俺の耳に届いたのは偶然だったのだろうか。
…もしかしたら、空耳かもしれない。何か言ったかと聞こうとした瞬間、今度ははっきりとした口調で風間が言った。

「道が見えてきたな」

矢張り先程の言葉は空耳だろうか。
風間が言ったように、少し下ると突然目の前が開けた。そこには人通りの全くない細い道が、山裾に沿って続いていた。

「この道を真っ直ぐ行け、貴様等の住む町に出る」

風間が道を示すが、町に出る迄の道の単純さに俺は驚く。こんな場所に鬼が棲んでいるとは。。

「あんたの棲家を俺に知られた事は良いのか? 薩摩と事を構えたら、俺が殺しに来るかもしれないだろう」
「いつでも来い、歓迎してやる」
「……!」

俺など、いや人間など鬼の敵ではないという事か。風間はどこまでも俺を馬鹿にしている。風間とこれ以上話す事は無く、

「世話になった」

また礼も言えないのかと言われたくなくて、俺はそれだけ言うと風間の示した道を進み始めた。
その俺の背中に風間が最後に声を掛けてくる。

「おい、貴様の名は何だ」

仕方無しに一度振り返り斎藤一だと答えると

「斎藤か、覚えておいてやる。お前が新選組で何をするかも見届けてやる」

何故そんな事をする必要がある…俺達は敵対する者であって、見届けられるなどおかしな話だ。何も答えぬ俺に、風間はいつも通りの皮肉な笑みを浮かべて楽しそうに話掛けてきた。

「頑張れば、また褒美をくれてやる」
「そんなものなどいらん」

このやり取りを最後に、俺は風間と別れた。

月に導かれ細い道を歩く。
歩きながら、俺は気持ちが晴れないのを意識していた。何か心に引っ掛かるものがあるのだが、一体何だろうか。

風間が俺を見届けると言った事か?
いや、違う。
では女鬼を探していると言った事か?
いや、それでも無い気がする。
では何だ……幾度となく与えられたあの甘い口付けか? ふと見せられた優しい笑顔か? 熱い抱擁か?
俺は今日一日で風間にされたことを、嵐のように思い出す。そして――


「惚れてしまったなら、俺はそいつを殺す事など出来んだろうがな」


突如思い至ったこの言葉に、俺は思わず足を止めた。
あいつは俺が弱いから殺さなかったと言っていたが、まさか――。

俺は急いで振り返る。
とっくに立ち去ったと思っていた風間は、俺と別れた場所から動いていなかった。
風間は俺と目が合うと、今迄見せた事のない不思議な表情で微笑んだ。それは人間が、辛いのを我慢して笑う時に見せる表情によく似ている……

無意識に、俺の足が風間へ向かおうとしていた。
俺は何をしている? 行ってどうしようというのだ。
かろうじてそこに留まるが、俺は風間から目が離せない。

俺が歩いた分だけ離れた距離が、やけに遠く感じられた。
声を掛けても恐らく届かない。だが掛ける言葉など見当たらない。俺達は離れた場所で、ただ静かに見つめ合っていた。



月が俺達を照らす。

風間の表情は人間と何ら変わりは無いのに、月の光を浴びて金に輝くその髪が、人間と鬼との違いを強く感じさせた。
俺達はきっと、この離れた距離よりももっと遠い存在なのだ――

俺はしばしの逡巡の後、屯所へ向かう道を選んだ。
この先の俺の行動を、あいつは見届けると言った。離れても、きっと風間は俺を見ている。
ならば、俺は新選組での仕事を全うしてみせよう。人間である事を、自分が鬼で無い事を、後悔しないで済むように。

風間は俺が見えなくなるまでそこに居るのだろう。もしも、もう一度振り返ってしまったら俺は…
何度も振り返りそうになってしまう気持ちを抑え、俺は新選組の待つ屯所へと向かった。



この日から、月を見る度思い出す。


あの金の髪を、あの紅い目を……



2010.01.07