シャル、シャル、と呼ぶ声が好きだった。
まるで親鳥の後ろをついて回る雛鳥のように、ユキは俺の後をよく追いかけていた。皆にはからかわれたけど俺はそんなに嫌いじゃなくて、むしろ俺を頼ってくるユキが可愛くて仕方なかった。
さらさら流れる黒髪が好きだった。
風呂なんて滅多に入れないのに何故かユキの髪はさらさらで、手ぐしですいてやると気持ちよさそうに目を細める姿が猫みたいで。それを本人に伝えると頬を膨らませて怒られた。
深い海色の瞳が好きだった。
一度その瞳から涙を溢してしまって、その原因の俺は皆から冷たい目で見られた。謝ると「シャルだいすき」なんて言葉と共に無邪気な笑顔を向けられて、自分の中の何かがゾワリとした。
柔らかい手が好きだった。
つまらないことでチンピラと喧嘩をして、殺したらユキが偶然通りかかった。殺したことに対しては何も言わず、「まったくもう」と俺の手を掴んで返り血を洗い流してくれた。その手つきが、ひどく優しかった。
桃色の唇が好きだった。
どんな感触なんだろうと、興味本意で指でつつくと真っ赤な顔をして睨まれた。海色の瞳に薄い膜が張っているのを見たら気分が高揚して、衝動のままに唇を重ねた。
「……わからないな」
「は、はあ?てかシャル、今の、」
「なんでユキなんかにキスしたんだろう…」
「知らないよ!とりあえず謝ろうよ!」
全部全部好き"だった"、なんだ。
今の俺のユキへの気持ちは好きなんて簡単なものじゃない。恋とか愛とかいう綺麗なものでもない。何て言えばいいのかわからないけど、多分、
「ねーユキ」
「……なに」
「もっかいキスしていい?」
「なんで!?」
多分、すごく大切な人、なんだろう。
人間が空気がないと生きていけないように、きっと俺も、ユキがいないと生きていけない。
←→
←←
▲top
ALICE+