どうやら私は転生したらしい。というのも、目が覚めたら江戸時代だったのだ。着物に古びた建物、変わった髪型。何より大河ドラマでよく見ていた日本刀——侍、武士と呼ばれる男達。初めて見たときは堂々と武器をぶら下げて歩くその人達が怖かったけど、今はもう慣れたものだ。
「こんにちはー。生きてますかー?」
「……また来たのか」
うんざりとでも言うように歪められた顔に嫌味なくらい満面な笑みを浮かべる。すると男——比古清十郎は面倒くさそうにため息をつき、黙って家の中へと入っていった。勝った、と笑みを濃くしてその後に続く。
「今日は煮物でーす。近所のおっちゃんがくれた大根がいっぱいあってねー、すっごい美味しいのです」
「どうでもいい」
「あらやだ、こんな山奥に健気に通う女の子にひどいです」
「お前が勝手に来ているだけだ阿呆」
うふふ、とわざとらしく声をあげて笑う……が、気持ち悪そうな目で見られたからすぐやめた。割と傷ついたぞ今。
布を三重にして包んだ、煮物の入った皿を比古さんに渡す。何だかんだ言いながらも自炊を面倒くさがる比古さんは私からのお裾分けを受け取らなかったことはない。
「いつもより美味しくできたんで量多めですけど、まあ比古さんならいけますよね」
「……剣心にでも食べさせるか」
「ええっ! 比古さんが食べてくださ……けんしん?」
誰だそれは。
疑問の目を向けると比古さんは何故か舌打ちした。いかにも面倒なこと言っちまった、みたいな感じに。失礼な人だなまったく。
「けんしんという人は男性ですか?さっきの発言から同居しているようですが、でも比古さんは人嫌いですよね……ハッ! まさか衆道に目覚め、」
「うるせえ」
「いだいっ」
頭を叩かれてその場に悶える。比古さんにとっては軽く叩いたつもりでも私からすれば鉄鍋で叩かれるぐらい痛いのに。鉄鍋で叩かれたことないけど。
「そんなに気になるなら外で待ってろ。もうすぐ帰ってくる」
「外寒いです」
「馬鹿は風邪を引かない」
「そっくりそのまま返します。私は先週風邪で寝込んでましたから馬鹿じゃないです!」
「……ああ、だから来なかったのか」
今思い出したと言わんばかりの態度に目の前にある脛を思い切り蹴る。しかし効果は無に等しい。くそぉ、筋肉野郎め!
「比古さんなんて箪笥の角に足の小指ぶつければいいんだ」
「地味に痛い呪いをかけるな」
ムカつきを暴力に変えてげしげし攻撃をしていると小さな足音が聞こえてきた。もしかして"けんしん"とやらだろうか。
……標的変更。
「師匠、ただいま戻り——」
「出てけ泥棒猫!」
「え」
"けんしん"が暖簾を潜って現れた瞬間、その顔面に跳び蹴りをかます。スタッと綺麗に着地した私とは反対に"けんしん"は数メートル先に吹っ飛んだ。ザマーミロ。
「お前な……仮にも年下に何してんだ」
「年下でも年上でも比古さんを盗るなら容赦しません」
「俺はお前のもんじゃねーよ。一人で突っ走るな」
「じゃあアイツは比古さんの何なんですか!」
ビシィッと"けんしん"を指差すと比古さんはそれはそれは盛大なため息を吐いた。そして打ち所が悪かったのか、脳震盪を起こして気絶している様子の"けんしん"の元へ行き襟首を掴んで戻ってくる。
その一連の動作を見ていた私の横を通り過ぎる際、比古さんは爆弾を落とした。
「俺の弟子だ」
それが私——緋村ユキと、剣心の出会いだった。
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