扉の前で深呼吸。それでも胸の高鳴りが止むことはないのだけど、やらないよりはいいから私は毎回行っている。時計の針は昼休みの半ばで、昼食を食べ終えて一服している頃だろう。あの人の習慣は大まかにだけど把握している。だって、毎日のことなんだから。

「……よし」

 コンコン、と控えめにノックすると私の先輩であり、あの人の同僚でもある女性が笑いを含んだ声で入室を許可する。想い人に会えるというのはやはり嬉しいもので、直前までの緊張が嘘のように口角が上がった。

「失礼します! 赤井さんこれどうぞ!」
「……またか」

 扉を開けてすぐに持っていた手紙——所謂ラブレターを差し出す。渡す相手は赤井さんで、彼は少々うんざりした顔でそれを見下ろした。しかし残念ながら私はそれくらいではへこたれない。

「毎日毎日よく書けるな」

 ある日をきっかけに私は毎日赤井さんにラブレターを渡している。言葉で気持ちを伝えるのもいいけど、手紙に想いを書き記すという作業は思いの外楽しい。それを渡す時の緊張感が好きなのもあるけれど、何より嬉しいことがあるから。

「赤井さんへの想いは尽きることを知らないんです」
「……褒めたわけではないんだがな」
「言葉の受け取り方は自由ですよ。ささ、どうぞどうぞ」

 すす、と更に差し出すと、赤井さんはシンプルながらも女子らしいそれを手に取った。非常に不本意というか、面倒くさそうな顔だったけど。
 それでも、受け取ってくれたことが何よりも嬉しい。だからこの習慣と化したこの行為を止められないのだ。

「今日は何て書いてあるのかしらね、シュウ」
「……ジョディ、うるさいぞ」
「あら、じゃあ読ませてもらえるのかしら」
「……」

 もうひとつ嬉しいのは、赤井さんは私からのラブレターを誰にも見せたことはないということ。いつだったか、ジョディさんが覗き見をしようとしたら睨まれたと言っていた。これは脈ありなのかなと期待したけど、赤井さんからの返事はないためその真意は不明だ。

「赤井さん、そろそろお返事ほしいです」
「……」
「あーかーいーさーん」

 無言で背を向けた赤井さんに声をかけるも無視。今日も返事はもらえないらしい。
 まあまた明日も渡そうと決意していると、件の赤井さんがラブレターの封を開けながら口を開いた。

「あと10通書いたらな」
「……え? ほ、ほんとですか?」
「ああ」

 まさかのお言葉に目を丸くする。あと10通。というか、それはつまり、ラブレターを渡しても嫌がってたわけじゃないんでしょうか。そこら辺どうなんですか赤井さん。
 聞きたいことはたくさんあったけど、にやける顔を抑えるのに必死で言葉が出てこない。まだ返事をもらってないのに期待してしまう。

「が、がんばります!」

 やっと言えたのはこれで、赤井さんに意地悪く笑われた。






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