一人殺したら一回抱いてあげる、とあの人に言われた。私はわかったと頷く。

「じゃあ、何人殺したら私のものになってくれる?」

 そう聞くと「俺が今まで殺した人数を超えたら」と返ってきた。なるほど、とまた頷く。

「……それは、不可能じゃないかな?」
「だから言った」
「ひどい」

 他人の命を犠牲にしてなお、この人の心は手に入らないらしい。そもそも、心があるかどうかも、よくわからないのだけど。いや、でも、弟に対しての愛情はあるから、心はあるのか。

「私も愛情、ほしいな」
「そう」
「私だけに向けられる愛情とか、ない?」
「ないね」


 一人殺した。一回抱いてもらった。
 もう一回。甘えた声で強請ったけどデコピンされただけだった。痛かった。

「普通の女だったら首飛んでたよ」
「じゃあ普通の女じゃなくてよかったね」

 ゾルディック家の身体能力はそりゃあおかしなことになっているから、念だってすごいから、力加減を間違えたら普通の人だと死んでしまう。それをまあ、よく私にしたものだ。
 私だから大丈夫と思った?
 そう聞こうと思って、やめた。この人の場合、相手が死んでもどうでもいいと思ってるから加減のことなんて考えないだけだ。

「ねえ」
「なに」
「一人殺したら、一回抱いてくれるんだよね」
「そうだね」
「毎日殺したら、毎日抱いてくれる?」
「俺はそんなに暇じゃない」

 だよね。大きなベッドで一人で寝転がりながら笑った。ゾルディック家のご長男は、忙しいから。仕方ない。だから、私が目を覚ましたら、夢のようにこの人がいなくなってたことも、仕方ない。プライベートより仕事優先。伝統ある暗殺家業だ。仕方ない。

「お前も強情だね。一週間もベッドから出ないなんて」
「抱いてもらった人の声で起きたいの。だめ?」
「面倒くさい。もう二度と起こさない」
「あはは」

 知ってる。知ってるよ。次の仕事が私とペアだから、シルバさんに言われて渋々起こしにきたんでしょう。あなたの意思でないことくらい、わかってる。ただ、一回だけ、愛情を、錯覚でもいいから、感じたかっただけで。

「今日たくさん殺したらさ」
「うん」
「たくさん抱いてくれる?」
「人数がわからなくなったらノーカン」
「えー」

 ケチ、と口を尖らせてみながら、ベッドから立ち上がった。






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