〈炭治郎〉

 命が危ないときに必ず助けてくれる、そんな素敵な運命の人は存在すると思うの。
 確かに私はそう言ったけど、それは仲間を蔑ろにしたかったわけじゃない。鬼が次の攻撃に転じるその隙に頸を斬って、ろくな確認もせずに炭治郎に駆け寄る。致命傷ではない、けれど。悔しさに歯を噛み締める。

「私、自分を大事にしない人は嫌いよ」

 炭治郎は傷を痛そうに抑えながらも笑う。無事でよかった。その言葉は正しくない。だって炭治郎は無事じゃないし、私の心はとても痛いから。

「あなたの運命の人になりたくて」
「……なら、もっと強くなって。今の鬼を、無傷で倒せるくらい」

 失う人の気持ちがわからない子じゃないのに。そんな重い感情を向けられても、私はこれ以上背負いたくないのに。
 でも、頑張りますと意気込むこの子供も重いものをたくさん背負い込んでいると思うと、どうにも私は振り払えないのだ。


〈善逸〉

 善逸はうるさい。好きだの結婚してくれだの養うだの。適当に聞き流すのも疲れた為素直に「うるさい」と言ったところ今度は泣き出した。本当にうるさい。

「ひどいよぅ。こんなに好きなのに……」
「それ会う女の人全員に言ってるでしょ。説得力ない」

 つれない態度を崩さずに言うと涙の滝は更に激しさを増した。こんなに面倒くさい男……いや、人間もそういない。本当に私が好きなら態度を改めればいいものを。

「違うよ、俺は」
「違くないー」
「……そういうとこがひどい」

 恨めしそうな言葉におや、と意外に思う。善逸は私含む女に対して甘い言動しか吐かないから。必死に涙を拭うその表情も、少しばかり不満そうにしている。

「ほんとはもう知ってるくせに」

 いつもこれくらい落ち着いていれば違うだろうにと、濡れて輝く金色から逃げるように視線をそらした。


〈伊之助〉

「お前虫食えんのか…!?」

 私を指した指を戦慄かせた伊之助の発言に目を丸くする。むし……虫?と脳内で漢字変換できたところで勢いよく首を横に振った。口の中に入っているものを飲み込んで「違う!」と改めて否定する。

「なんで虫!? どっからそんな発想が出てきたの!? 食べるわけないじゃん!」
「だってそれ、パクチーとかいうやつだろ! 俺知ってるぞ! カメムシの味がする草だ!」
「野菜だよ! いや草だけど! 野菜って言って! あとカメムシの味なんかしないし。伊之助、食べたことないの?」
「カメムシなんて食うわけねえだろ。頭大丈夫か?」
「殴るぞコノヤロウ。あとカメムシじゃなくてパクチーだから」

 パクチーのおいしさを知らないとはもったいない。タッパに入ったパクチーを伊之助に「食べてみれば?」と差し出す。好き嫌いが分かれる野菜だけど物は試しだ。伊之助は葉を取ると匂いを嗅ぎ、そして嫌そうな顔をした。






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