手をつないでほしいとあいつはたまに言ってくる。
なぜオレがそんなことをしなければならないのかまったく不可解だし言うことを聞いてやる義理もない。毎回何の反応も見せずに本を読みふけっているが、そうすると本を持っていない方の手を掴んでくる。片手でもページは捲れるため構いはしない。あいつに手を握られるのは不快でもないし気にもならない。構わずページを進めて読み終わる頃には勝手にいなくなっているし、そばにはプリンが置いてある。
団員の誰かがいるときはあいつはオレに寄ってこない。話はするが手を伸ばしても届かない距離を保つ。理由は知らない。ただマチがオレ達のその距離に顔をしかめていたから、彼女は知っているのだろう。しかし興味はないため聞いたことはない。
「手、つないで」
今はオレと2人だけだった。こいつはいつも手を繋ぎたがっているわけではないからタイミングがよくわからない。本の文字を追うのをやめて顔を上げる。まっすぐ差し出された右手を見て、次に真剣な顔を見た。こいつはどういう感情でオレに手を繋げと言っているのだろう。こいつの性格から恋情の類ならもう少し照れそうなものだし、友情からなら笑顔のひとつでも見せるものと思っていたのだが。
「なぜオレと手を繋ぎたいんだ?」
それなりに長い付き合いで、それなりの回数手を繋いできたはずなのにオレはこいつのことをよく知らない。興味を持ったのも初めてかもしれない。質問をしたオレに表情を崩した女は右に首を傾けた。その仕草は子供の頃と変わっていないなと数少ない情報を思い出す。
「わかんない」
「わからないのに手を繋ぐのか」
「うん」
「じゃあオレでなくてもいいな」
「クロロは行動に理由を求めるね」
「求めないときもある」
「そうだね。でも知りたがりだ」
ふふ、と口端を持ち上げて手を取られる。手のひらから伝わる人肌のぬくもりは心地はいいが居心地が悪い。オレから握り返すことはないのに満足そうな顔をする女がわからなかった。
「知識はあった方が役に立つ」
「知らない方がいいこともあるっていうよ?」
「でもお前もわからないんだろう」
「わからないのが楽しいの」
理解できない。世の中どんなに頑張ってもそういうことはある。理解する必要のないものもある。これは後者だ。この女を理解する必要は全くない。
しかし興味は持てた。例えば今オレが手を握り返したらこいつはどんな反応をするのか。まずは両手が塞がっている状況で、身を乗り出して本を覗き込む邪魔な頭を退ける策を考え始めた。
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