「これは待つしかないな」
遊真と夕飯の買い出しに出かけた帰り。突然雨に降られて空き店舗の軒先に避難したはいいものの、地面に強く打ちつける様子に二人して溜息をついた。夕立だろうからすぐ止むとは思うけれど、小南がお腹すいたと騒いでいたから帰ったら小言がうるさそうだ。
「今日に限って時間のかかるものをリクエストしてくるんだもんなぁ」
「おれ手伝うぞ?」
「ありがとう〜。助かる。コロッケ作ったことある?」
「食べたことはある。うまいやつだろ」
「そうそう。作りながら教えるから、サポートお願いね」
「まかせろ」
ぐっと親指を立ててキメ顔をする遊真に笑って、もう一度お礼を言う。遊真は案外力が強いし、マッシャーでじゃがいもを潰してもらおう。今日は修くんとチカちゃんも玉狛支部で夕飯を食べる予定だから、みんなで成形するのも楽しいかもしれない。楽しい雰囲気に持っていけば小南の不機嫌もなおるだろう。
早く止まないかなと空を見上げる。雨の勢いは先程よりは弱くなったけれど、走って帰るにはまだ躊躇する。
宇佐美にメールで雨で少し遅くなることを伝えると、『迎えに行こうか?』と返ってきた。どうしようか。雨はいつ止むかわからないけれど、迎えに来てもらうほど距離が離れているわけでもない。
「しおりちゃんか?」
「あ、うん。迎えに来てもらえるかもって。ボスとレイジさんは本部だから、たぶん小南か宇佐美が歩いて傘持ってきてくると思う」
「しおりちゃんは夜までパソコンから離れられないって言ってたぞ」
「じゃあ小南が来るかも」
「決定はしてないのか」
「うん。頼む?」
「いいよ。待とう」
そう言うと遊真はシャッターに背を預けて待つ体勢になった。特に異論はないので断りの返事をして、携帯を上着のポケットに仕舞う。
ちなみに迅さんには元から期待していない。あの人の場合、私たちが本当に困っていたら傘を持ってきてくれるけれど、そうじゃないから今来ていないのだろう。朝から姿を見かけなかったから、きっと今日も彼はどこかで暗躍をしている。
しばらく雨音を聞きながらぽつぽつと遊真とランキング戦について話していると、雲の隙間から日が差してきた。雨も弱まってきたし、そろそろ帰れるだろう。夕飯の材料の入ったバッグを持ち直す。
「結構遅くなっちゃったね。帰ろっか」
「おう」
「小南怒ってるだろうな〜。遊真、ご機嫌取りお願いしていい?」
「いいぞ」
「だよね〜……って、え!? いいの!?」
軽い冗談のつもりだったのに。目を白黒させて驚くと、遊真はまた親指を立てた。任せろということらしい。なんてこった。男前すぎる。
「その代わり条件がある」
「あ、やっぱり?」
「ゆっくり帰ろうぜ」
「それは火に油を注ぐのでは?」
「ついでにユキの荷物を右手から左手に移せば、おれと手を繋いで歩ける」
「へ、」
目の前で遊真の左手がひらりと揺れる。その向こうで挑戦的な赤い目と視線が合い、雨宿りからの一連の流れを思い出して一気に脱力した。なるほど、男前だ。それでいてかわいらしい。
帰ったら小南に夕飯が更に遅れることと、弟子を誑かしてしまったことを謝らなければ。拗ねるかなぁ。拗ねるだろうな。でも宥めるのは私じゃないから、たまにはいいか。
絡ませた指を握ったり開いたりして感触を楽しむ。遊真が「くすぐったい」と笑って、少し痛いくらいに握る力を強めた。
「迅さんにはコロッケをひとつあげなきゃな」
「え?なんで?」
「そういう約束なんだ」
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