包帯女と呼ばれた。
聞き慣れない声に振り向くと、猪頭を被った少年らしき人が自分を指差していた。首を傾げて自分も自分を指差すと鼻息荒く「お前だお前!」と言われる。
「お前いつも包帯ぐるぐるで包帯配ってんだろ! だから包帯女だ!」
「はあ……」
確かに怪我の多い自分は顔からつま先まで全身包帯だらけだし、常備している包帯の予備を任務に向かう隊士にあげている。怪我なく生きて帰ってくるのが一番だが、念の為だ。
しかしそれと猪頭のこの子と何の関係があるのだろう。そもそも初対面のはずだ。釈然としない自分の態度に苛立ったのか、その子は意味のない言葉を叫びながらその猪頭を外した。
「これ! これのことを言いにきたんだ!!」
なんとも整った顔立ちに見惚れるより早く、猪頭くんが頭の包帯を乱暴に掴む。包帯を巻いているぐらいだ、怪我をしているんだろう。猪頭くんは痛みに眉をひそめたが、構うことなく包帯を外してしまった。それを自分に突き出す。
「お前にこんなもん渡されたせいで紋次郎の奴に巻かれたじゃねーか!! 邪魔で仕方なかったんだ!!」
「……わざわざ返しにきたの?」
「ちっげーよ!! 俺様は捨ててやろうとしたんだ!! 紋次郎が包帯くれた奴は誰かっつーから来てやっただけだ!!」
「じゃあなんで包帯外して自分に差し出してるの?」
「ああん!? 差し出してねーよ!! これは俺のもんだ!!」
「……あの、君はつまり何が言いたいの?」
支離滅裂な言動から意味を汲み取ることをやめて聞くと、猪頭くんは自分を睨んで黙り込んだ。そんなに言いにくいことなのだろうか。よくわからない子だ。
しばらく待ったが膠着状態が解けることはなかったため、諦めて踵を返す。言いたくなったらまた声をかけてくるだろう。そう考えての行動だったが、逃げたと思われたらしく「待てコラ!」と頭を掴まれた。もう一度言う。頭を掴まれた。
「え、痛い痛い。なんで頭? そこは肩じゃないの?」
「お前が逃げようとするからだろうが!!」
「いやいや、君が何も言わないから……」
「うるせーよ!! いいから包帯よこせ!!」
「いたたた、ねえ自分も頭怪我してるんだけど……ん? 包帯? いるの?」
はい、と袂から新品の包帯を背後の猪頭くんに差し出す。すると猪頭くんはほわほわした不思議な空気を出しながら、ようやく頭を解放してくれた。奪うように包帯を取り、その場を去ろうとする雰囲気に自分も部屋に戻ろうと足を踏み出す。
「あ……」
何歩か進んで、視線を感じて振り返る。猪頭くんもこちらを見ていた。口をもごもごさせて、親に言いにくいことを言うときの子供みたいだと思った。また辛抱強く待ってやる。
「……」
「……」
「……あ、アリガトウゴザイマシタ」
「! うん。はい、どういたしまして」
小さな声は聞き取りづらかったけれど、確かに聞こえた。お礼を言ってすぐに走り去った姿は正に猪。かわいい後輩が入ってきたものだと少しだけ軽くなった袂を揺らした。
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