※死ネタ
さらさら、ちゃぷちゃぷ。この音はなんだろう。とても気持ちのいい微睡みの中にいたのに唐突に気になって重い瞼を開ける。けれど本当に重たくて半分くらいしか開かなかった。瞼だけじゃない、全身が重い。指先ひとつ動かせなくて、まるで金縛りみたいだ。もしかして体の上に幽霊でも乗っかっているから動かないのかと思って、唯一動く目をゆっくり下に向ける。
「起きたのか」
白い子供だった。
体の上ではなく横に胡座をかいて座っている。少し驚いた様子で身を乗り出してきたことでわかったことは、白い頭に反して瞳の色が赤いことだった。鮮やかな赤。とてもきれいで——私の血とは大違い。
「……」
現在地を問おうとしたが、は、という薄い呼吸しか出なかった。思わず寄せた眉が引き攣った感覚を伝えてきて頭部周辺の血液が渇いているのがわかる。それだけの時間が経ったということだ。
死ぬんだなあ、私。
悟ってしまって、鈍い瞬きをする。
「ごめんな。おれでいいなら、言い残したことがあれば聞くぞ」
子供——声音と口調からして少年だろう——が聞き取りやすい声で問いかけてきた。どうしてこんな戦場近くにいるのかと思っていたが、慣れた聞き方からして戦争経験があるのだろう。味方か、はたまた敵か。どちらでもいい。見知らぬ私を看取ってくれる心優しい子だ。
そっと目を細めて、強く握り締めたまま動かせない手をどうにか地面から少しだけ浮かす。それだけで少年は察してくれ、優しい手つきで拳をといた。手のひらから慣れ親しんだ感触が消える。
私のトリガー。幼い頃からずっと一緒で大切なもの。
手渡した意図がわかったのだろう。平静だった少年の赤い瞳が丸くなった。
「いいの?」
いいよ。
伝わるように、瞬きをひとつ。
「……わかった。大事にする」
「……、」
ありがとうとお礼を言いたいのに、瞼がどんどん重くなる。優しい子には生きていてほしい。戦争なんてなくなればいい。この優しい少年が看取る人間が、私で最後になればいい。
眠たいな、寝たくないな。そういえば、あの音の正体は何だったんだろう。
「おやすみ」
ふっと視界が暗くなる。温かい。心地よさに身を委ねれば、意識はそのまま沈んでしまった。
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