好きです、という言葉を受けてまず相澤の頭に浮かんだのは『事案』の文字だった。なぜなら相澤は教師で、相手は生徒だからだ。更に言えば二人ともヒーロー科が頭につく。逮捕、警察、裁判、辞職、等々上げればキリがないがプラスの言葉がないことだけは確かだ。
 せめて誠実に断ろうと相澤が口を開いたと同時、遮るようにユキの声が廊下に響く。

「振られてもいいです。それでも私はこれから先も相澤先生が好きだし、好きだって言い続けます。この日までずっと我慢してたんですから、それくらいは許してください」

 そうは言われても許す許さないは相澤ではなく司法が判断することだ。今日高校を卒業したからと言って告白されても困る。
 弱った考えが顔に出ていたのだろうか、ユキが小さく「すみません」と謝る。謝るくらいならこんな結末のわかりきっている非合理的なことをしなければいいものを、とは思うが恋愛自体非合理の集合体みたいなものだ。相澤にはあまり経験がないからよくわからない。

「もちろんオッケーなら全然嬉しいんですけど……あっ、もしかしてオッケーですか?」
「んなわけねえだろ……教師でヒーローだぞ……」
「あー! あー!! 理由に立場を挙げるのはずるいです! 聞かないです! 振るならすっぱり振らないと私しつこいですからね!」

 ユキが一歩踏み出し、表情とは裏腹に声を張る。入学してきたときよりも近くなった目線で、これからヒーローとしてたくさんの人を救う手で相澤を指差す。
 だから結論はやはり出ていた。がりがりと頭を掻きながら、できるだけいつもの調子で言葉を紡ぐ。

「じゃあ今からおれはお前を振るわけだが」
「……はい」
「さっきも言った通りおれは教師でヒーロー、お前は今日で雄英を卒業したがまだ生徒だ。三月までな。これはわかるな?」
「……そうですね」

 段々とユキの眉間の皺が険しくなっていく。不満があるのだろうが、強く握られた拳がそれだけでないことを示してきた。それをちらと横目で見て、ユキと目を合わせる。

「——だから、四月になったら顔出せ」
「…………え」
「正々堂々のがいいだろ。お前もおれも。ヒーローなんだから」

 ぱちくり。瞬きの拍子にユキの瞳から一粒涙が落ちる。それを拭うことは今の相澤にはできない。
 けれど、四月になれば。
 そのときは涙ではない、別の表情を。






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