Blanc Noir


長い長い悪夢の夜明け


式典服を身に纏う生徒で溢れ返す鏡の間では、黒い棺から出てくる新入生と、配属された後輩を案内する任務を下されている各寮長の他に、新たな一年生を見ようと集まる野次馬で溢れ返していた。

イグニハイト寮副寮長であるマリア・パナギアは、突然部屋に引きこもってしまった寮長イデア・シュラウドの代役として新入生の案内役を引き受けることとなった。
押し付けた本人であるイデアは、先ほどまでハーツラビュル寮長であるリドル・ローズハートによる小言に疲れたのか、ただタブレットを浮かせるのが億劫なのか、マリアの腕に抱かれていた。

≪イグニハイト寮に配属になった人はこっちー……ていうかマリア氏がいてくれるんなら拙者お役御免では?通信切ってもいい?≫

端末を通したようには聞こえない、クリアな声がやる気なく小さく響く。

「駄目だよ、イデア。君が寮長なんだから。」

耳障りの言い声は端末を通して彼の人のもとへ落ちていった。


***

なにやらハーツラビュルとスカラビアの集合地方面がガヤガヤと騒がしい。
何事かと思えば、一匹の猫の魔獣と一人が鏡の間を走り回っており、それを見ていたカリム・アルアジームの尻に火をつけたらしく一層喧騒を極めていた。
新入生であろう、リドルと同じくらいの背丈の小柄な子は、魔獣を何とか捕まえようと鏡の間から飛び出した魔獣を追いかけ、この場を後にした。

≪……何アレ、初日からヤバすぎない?≫

イデアは心底ドン引きした声音で呟く。
しかし返事の返ってこない隣人に、何事かと訝し気に盗み見る。

「……マリア氏?」

イデアの声も聞こえていないのか、マリアは過ぎ去っていった嵐のような一人と一匹の方面を、ひたすら惚けた様に見つめていた。

「—————あの子のことを、もっと知りたいな……」

ぽつりと放たれた言葉に、タブレット越しに聞いていたイデアは”これは、いけない”と警告にも似た感覚に身震いした。


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