「アラベル、外行こう!」
「はぁ?」
いきなり部屋に入ってきたかと思ったら突然自分の要求を言ってきた目の前の相棒にとりあえず怪訝な視線をくれてやる。だがまあきっと通用しないのだろう、実際こいつは先ほどと幾分も変わらぬ浮き立った表情で此方に近づいてきただけだった。
「だから外だよ外!クロガネ行こうクロガネ!」
「いやいやちょっと待てよ」
言い寄ってくるこいつを手で制し、呆れからのため息を一つこぼす。元気なのはいいことだと言われるがそれが許されるのは十代までではなかろうか。流石にこの年になるとこういう反応はうざったい。
「まず説明しろ、なんでいきなりそんなことを言い出したんだ?」
「ああ、そりゃ」
こういうわけだ、と上質なチラシをこちらに差し出しグシャラトは説明を始めた。
「今クロガネで発掘品の展示をしてるらしくてさ、……ほらこれ、俺たちの時代のにそっくりだろ?」
「ん、どれどれ……」
奴の見せたチラシに掲載されている写真を一瞥して、遠い過去の記憶を引っ張り出す。錆や破損があるとはいえ、確かに当時の生活用具や館の調度品にこのような物はあった。おそらくこれは俺達と同時代の物である可能性が高いだろう。
「そう言われてみれば、こういうのがあった気もする……」
「だろ、だからアラベルと一緒に見たいなって」
「……お前にそんな過去への愛着があったとはな……」
少々意外に思い、目の前ののほほんとした顔を見る。現代の文明に俺よりも早く慣れ、さして昔を思い返すこともしていないこいつがまさかこんな事を言いだすとは。そんなことまるで考えもしなかった。
「まぁ、たまにはいいだろ?俺だって昔を偲ぶことくらいあるさ」
笑いながらこいつが言うのを聞き、それもそうかと納得。感情、心というものは移ろいやすい。そんな懐古の念を突発的に抱いたところでなんら不思議ではないだろう。
心中において持論を展開していたら、それにとあいつが言葉を付け足す。何を言いだすのか不思議に思いつつ耳を澄ましているとグシャラトは一呼吸おいてから明るい調子で口を開いた。
「アラベルとデートとかしてみたかったし」
にっこりと、幸せそうにそんな事を言う。それは俺にとっては上級レベルの口説き文句だった。
「……お前、本当になんでそんなことがスラスラ言える」
「え?俺そんな気にするようなこと言った?」
「……はぁ」
本日二度目の溜め息をつき、よくわかっていない様子のこいつから目を逸らす。不覚にも、こいつの台詞にときめいた。何故か微妙に顔まで熱くなっている気がする。
全く、本当にやっかいな奴だ。空気読めないくせに突拍子もなくいきなりこんなことを言いだすなんて、予測不可能もいいところ。なんだか付き合っているこっちの方が疲れてくる。
にもかかわらず、こいつから離れられないのはどうしてなのだろう。こいつが嬉しそうにしていると此方まで嬉しくなるのは何故。
雰囲気が心地よいからか、放っておけないからか、あるいは別の理由か。
そんなことをウダウダ考えてみても、理解など出来ないことは承知の上だ。最初からそんなものありはしないのだから。
「で、一緒に行ってくれるのか?」
そんなあいつの質問に、軽い笑みを見せて答える。
「そんなの、訊くまでもないだろ?」
結局のところ、俺の答えはいつの時代であろうと関係なく同じなのだ。
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