睡魔の世界から浮上し始めていた意識の中で、カチャリと鎖の音を聞き取った。目を開いてみれば薄気味悪い笑みをその口元にたたえた被虐趣向者が俺に跨り此方を見下ろしている。愛おしそうに伸ばされた手を払って起き上がろうとしたら、眠る前には感じなかった違和感を左手に覚えた。

「………」

見てみれば、手首が冷たい鉄の手錠に包まれている。鎖を辿ると奴の右手も同じように束縛されていた。

「何のつもりだ」

この男の意図が読めなかった俺は感情を出すこともなく問いかける。奴は、繋がれた手で互いの指を絡め、唇に唇を触れさせてから、心底満ち足りたとでも言いたげな微笑みを浮かべた。

「このまま死ねたら、幸せだと思うんだ」

軽くて抑揚のない声が狭い部屋で重々しく響いた。奴は身体を動かして俺の視界を覆う。手錠の鎖は小さな音を立ててシーツの間を一度だけ泳いだ。

「このまま死ねたら、いいのにね」

鼓膜を震わせる声は相変わらずの振動しか持ち合わせない。目蓋を下ろし、空いている手の甲を額に持っていく。それから、酷く馬鹿げたことを言い出した奴に向けた呆れのため息を一つ唇の間からもらした。

「……妄想の中で、だけにしておけ」

告げた言葉は彼に届いたらしい、頬に冷たい指先の感触を覚える。

「そうだね」

寂しげにそう呟いた奴は、どんな表情で俺を見ていたのだろう。唇を塞がれた俺にはそれを問うことなども出来ず、ただいつもより少しだけ余裕のない彼のキスを受け入れた。


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