後ろ手に扉を閉めたグシャラトは、直ぐにその場で立ち止まった。否、立ち止まらざるを得なかった。弦が鳴ったと思うやいなや、彼から指一本分も離れていないところに矢が突き刺さる。視線を移せば短弓の取柄を握る長い指が目に入った。
犯人は誰か。彼は感情を込めずに口元を弓なりにし、悠々自適に座す目の前の男を睨んだ。

「……おい、何してくれてんだ?」

ティルス、と名を呼ばれた男は、興味なさげに視線を逸らし、虚ろな眼を暫しの間目蓋の裏に隠す。それから、嘆息と共に音を紡いだ。

「叔父貴以外に、部屋に入ってほしくないんだ」

「だからっていきなり矢ぁぶっ放されたらこっちがたまらないんだが」

「さあ。俺は叔父貴以外どうでもいいから」

そうとだけ告げて、ティルスは弓の弦を弄び始める。早く出ていけ、と言わんばかりに。全くもって愛想がない。そもそも、良心がない。グシャラトは更に鋭い眼光で一睨みするも、意味がないと悟った後は一度ばかり舌打ちをして、用件だけを口にした。

「……その叔父貴さんと、一緒に来いだってよ。和彦がそう言ってた」

彼の言葉を耳にして、男は初めて瞳に感情らしい感情の色を乗せた。嬉しそうに微笑み、弓を持ったままおもむろに立ち上がる。

「それを早く言ってほしかったよ」

矢筒を肩にかけ終えた男は扉を開け放ち、グシャラトの横を足取り軽く過ぎていく。行き先は、すぐ隣の叔父の部屋。扉が開き、閉じた音を聞きながら、わざわざ伝えにきたというのにこの仕打ちか、彼は深く息を吐き、頭を掻いた。

(……今度から、紅鎌さんだけに伝えるか)

そんなことを考え、彼も主が消えた部屋を後にした。


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